退職日は自分で指定できる?主導権のありかを条文で確認
「退職日は自分で決めていいのか、それとも会社が決めるのか」。ここがあいまいなまま話を始めると、会社の提示した日をそのまま受け入れることになりがちです。転職先の入社日が決まっている人にとっては、数日のずれが大きな問題になります。
この記事では、退職日の主導権がどこにあるのかを条文から整理し、希望日を通しやすくするために先に決めておくことを並べます。
この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。個別の扱いは就業規則や事情によって異なります。会社との調整が難航している場合は、弁護士や社会保険労務士など専門家にご相談ください。
条文の形は「申入れ+期間の経過」
民法627条1項を条文のまま引きます。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
読み方のポイントは2つです。
- 「いつでも解約の申入れをすることができる」:申し入れるタイミングは、こちらが選べる形になっています。
- 効果は「二週間を経過することによって終了する」:終了の時期は、期間の経過に結びついています。
つまり条文の構造上、「申し入れる日」を選ぶことで、終了する日も動くという関係になっています。「会社が承諾した日に辞められる」という組み立てにはなっていません。
ただし、ここから「希望日が必ず通る」と結論するのは早すぎます。実務では次の要素が絡むためです。
- 就業規則の予告期間(労働基準法89条3号「退職に関する事項」にもとづく記載)
- 有給の残日数をどこに充てるか
- 給与の締め日・社会保険の区切り
- 引き継ぎの都合
希望日が通りやすいケース・ぶつかりやすいケース
| 状況 | 希望日の通りやすさ | 理由 |
|---|---|---|
| 予告期間より余裕をもって申し出た | 通りやすい | 規則の要件も満たしている |
| 2週間ぴったりを希望し、規則は1か月前 | ぶつかりやすい | 規則との食い違い |
| 有給を全部消化したい | 調整が要る | 消化日数と退職日が連動する |
| 月末を希望 | 通りやすい | 給与・保険の区切りに合う |
| 締め日の翌日を希望 | 調整が要る | 半端な日数の給与計算が発生 |
| 転職先の入社日が翌月1日 | 通りやすい | 前月末退職と噛み合う |
見てのとおり、「会社が意地悪をするから通らない」というより、事務処理の区切りとぶつかると調整が要るというのが実態に近い構図です。就業規則との食い違いは 就業規則に「1か月前」とある時 で、月末・月初の損得は 月末退職と月初退職はどちらが得か で詳しく扱っています。
先に決めるべきは「入社日」か「退職日」か
転職先が決まっている場合、締切が2つあることになります。この順番を間違えると、あとから動かせない側を動かそうとして詰みます。
- 転職先の入社日を確定する。 これは相手のある話で、こちらの都合だけでは動かしにくい側です。
- 入社日から逆算して退職日を置く。 空白期間を作らないなら、入社日の前日を退職日にするのが基本形です。
- 退職日から、有給の残日数だけさかのぼって最終出社日を出す。
- 最終出社日から逆算して、申し出る日を決める。
この4段階を日付として出せるのが 退職日の逆算カレンダー です。辞めたい日を入れる使い方と、申し出る日を入れる使い方の両方ができます。
転職と退職の順番そのものについては 在職中の転職と退職のタイミング、内定後の段取りは 内定が出たあとの退職の段取り をご覧ください。
会社が退職日をずらしてきたら
「その日は困る」「もう1か月いてほしい」と言われた場合、ここから先は交渉の領域に入ります。そして交渉ができるかどうかは、運営元タイプで決まります。
| 運営元タイプ | 退職日の調整でできること |
|---|---|
| 民間企業 | 希望日を伝えるのみ。ずらされても押し返せない |
| 労働組合 | 団体交渉として退職日を話し合える |
| 弁護士 | 代理人として交渉し、争いになれば法的対応まで |
労働組合の交渉権限は労働組合法6条にもとづきます。
労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する。
そして同法7条2号は、正当な理由なく団体交渉を拒むことを使用者の禁止行為として挙げています。範囲の詳細は 団体交渉権で何ができるのか にまとめました。
「退職日にこだわりがある」人が民間企業タイプを選ぶのは、構造的に噛み合いません。 伝達しかできないため、会社が別の日を提示した時点で行き止まりになります。タイプの違いは 運営元タイプの違い、料金の目安は 料金相場と選び方 をご覧ください。
有給の希望が絡む時の注意
「退職日は動かさず、有給を全部消化したい」という希望は、実は退職日の交渉と有給の交渉が同時に走る状態です。労働基準法39条5項には次の定めがあります。
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
「ただし」以下があるため、希望どおり並べられるとは限りません。 消化しきれない見込みなら、退職日を後ろにずらすか、消化日数を減らすかの選択になります。詳しくは 退職代行で有給消化はできる? を。
まとめ
- 民法627条1項は「いつでも解約の申入れをすることができる」と定め、終了時期を期間の経過に結びつけている。承諾を条件とする組み立てではない
- ただし実務では、就業規則の予告期間・有給・締め日・引き継ぎと調整が必要になる
- 転職先があるなら、入社日を先に固定して逆算するのが順番
- ずらされた場合の押し返しは交渉。できるのは労働組合と弁護士で、民間企業タイプは伝達まで
退職日は「お願いして決めてもらうもの」ではなく、こちらが提示して、必要なら調整するものです。まず自分の日付を持ってから話を始めてください。
退職後の給付金(失業給付)について
退職日によって給付の開始時期が変わるのでは、と気になる人もいるかもしれませんが、注意が必要です。失業給付(雇用保険の基本手当)の申請は、退職後にご本人がハローワークで行う手続きで、退職代行が代理申請することはできません。 受給の可否・金額・時期は、加入期間や離職理由などご自身の状況によって異なります。
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