月末退職と月初退職はどちらが得?健康保険法の条文で確認
「退職日は月末がいいと聞いたけれど、なぜ?」。退職日を数日ずらすだけで手取りが変わる、という話は聞いたことがあっても、理由まで説明されることはあまりありません。しかも「月末が得」と書くサイトと「月末の前日が得」と書くサイトが両方あります。だから余計に混乱します。
この記事は、何がどの条文で決まっているのかを確認しました。そのうえで、月末退職と月の途中の退職で何が変わるのかを見ます。金額そのものは人によって違うので出しません。構造がわかれば自分のケースで判断できます。
この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言・税務や社会保険の個別助言ではありません。保険料の額や扱いは加入している保険者・自治体・ご自身の事情によって異なります。具体的な金額や手続きは、勤務先の担当部署、協会けんぽ・健康保険組合、お住まいの市区町村、年金事務所にご確認ください。
資格を失うのは「退職日の翌日」
まず押さえるべきは、健康保険の資格をいつ失うかです。健康保険法(大正十一年法律第七十号)36条を条文のまま引きます。
第三十六条(資格喪失の時期) 被保険者は、次の各号のいずれかに該当するに至った日の翌日(その事実があった日に更に前条に該当するに至ったときは、その日)から、被保険者の資格を喪失する。 一 死亡したとき。 二 その事業所に使用されなくなったとき。
「該当するに至った日の翌日」から資格を喪失する。ここが起点です。つまり、こうなります。
- 9月30日(月末)に退職 → 資格喪失は10月1日
- 9月29日に退職 → 資格喪失は9月30日
たった1日の違いに見えます。ですが、この1日が月をまたぐかどうかで扱いが変わります。
保険料は「資格を喪失した月」の分が算定されない
次に、保険料の側です。健康保険法156条3項を条文のまま引きます。
前二項の規定にかかわらず、前月から引き続き被保険者である者がその資格を喪失した場合においては、その月分の保険料は、算定しない。
資格を喪失した月の分の保険料は算定しない、という定めです。これを先ほどの2つのケースに当てはめます。すると、次のようになります。
| 退職日 | 資格喪失日 | 喪失した月 | 9月分の健康保険料 |
|---|---|---|---|
| 9月30日(月末) | 10月1日 | 10月 | 算定される |
| 9月29日 | 9月30日 | 9月 | 算定されない |
ここだけを見れば、「月末の前日に辞めたほうが1か月分浮く」ようにしか見えません。ネット上で「月末の前日が得」と書かれるのは、この条文が理由です。
ただし、抜けた分は別の制度で埋まる
ところが、話はここで終わりません。会社の健康保険を抜けた日から、別の制度に加入する必要が生じます。
9月29日に退職すると、9月30日から会社の健康保険の被保険者ではなくなります。この期間をカバーするのは、次のいずれかです。
- 国民健康保険(お住まいの市区町村)
- 任意継続(それまでの健康保険を継続する制度)
- 家族の被扶養者になる
つまり、会社の保険料が「算定されない」月は、代わりに国民健康保険料などが発生しうる月でもあります。どちらが軽いかは、標準報酬月額、自治体の保険料率、扶養家族の人数によって変わります。一律に「こちらが得」とは言えません。
年金についても同じ構造です。会社の厚生年金の被保険者でなくなれば、国民年金法12条1項にもとづく届出が必要になります。
被保険者(第三号被保険者を除く。次項において同じ。)は、厚生労働省令の定めるところにより、その資格の取得及び喪失並びに種別の変更に関する事項並びに氏名及び住所の変更に関する事項を市町村長に届け出なければならない。
日本年金機構の国民年金に加入するための手続きを見ます。この届出について提出期限「退職日の翌日から14日以内」、提出先「住所地の市区役所または町村役場」、提出者「ご本人または世帯主」と記載されています。
任意継続を選ぶなら期限が短い
会社の健康保険をそのまま続ける「任意継続」を検討するとします。このとき、期限がかなり短いので油断できません。全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続の加入手続きについてを見ます。そこには、「電子申請による申請、又は『任意継続被保険者資格取得申出書』をご記入のうえ、お住まいの住所地を管轄する協会けんぽ支部に退職日の翌日から20日以内にご提出ください」と記載されています。締切間際になったらどうするか。郵送の扱いは、提出先の支部にご確認ください。
健康保険組合に加入していた場合は、その組合の定めを確認してください。退職後の保険と年金の全体像は 退職後の健康保険と年金の切り替え にまとめています。
実際に何を比べればいいか
「月末か、その前日か」を判断するために見るものを並べます。
- その月に給与が発生するか。 月の途中で辞めると、その月の給与は日割り等になります。社会保険料が引かれない代わりに、手取りの総額も変わります。
- 国民健康保険料の見込み額。 お住まいの市区町村の窓口で試算してもらえることがあります。
- 任意継続の保険料の見込み額。 会社負担分がなくなるため、在職中の給与天引き額とは異なります。
- 転職先の入社日。 翌月1日入社なら、前月末退職が噛み合います。空白期間そのものが生じません。
- 賞与の支給日在籍要件。 賞与の絡む時期なら、そちらの影響のほうが大きい場合があります(ボーナス支給日と退職のタイミング)。
退職日の候補が複数あるとします。退職日の逆算カレンダー で、申し出日から数えた日付を並べてください。月末に届くかどうかを先に確認しておくと、話が早くなります。
退職日を動かすには交渉が要ることがある
ここまでの話は、「退職日を選べる」場合にしか当てはまりません。会社が別の日を提示してきた場合、押し返すには交渉が必要になります。交渉できるのは労働組合が運営するタイプと弁護士が運営するタイプです。民間企業タイプは伝達までにとどまります(運営元タイプの違い)。退職日の主導権については 退職日は自分で指定できる? もご覧ください。
条文で決まることと、決まらないこと
- 健康保険法36条により、資格を失うのは退職日の翌日
- 同法156条3項により、資格を喪失した月分の保険料は算定されない
- ただし抜けた分は国民健康保険・任意継続・被扶養者のいずれかで埋める必要があり、一律にどちらが得とは言えない
- 国民年金への切り替えは退職日の翌日から14日以内(日本年金機構)、協会けんぽの任意継続は退職日の翌日から20日以内(協会けんぽ)
- 賞与や転職先の入社日が絡む場合は、そちらの影響のほうが大きいこともある
「月末か前日か」は、条文の構造を知ったうえで自分の数字を2つ並べて比べるしかありません。窓口で試算してもらえる部分は、動く前に聞いておくのが確実です。
退職後の給付金(失業給付)について
退職日と給付の関係を気にする人もいるかもしれません。ここは注意が必要です。失業給付(雇用保険の基本手当)の申請は、退職後にご本人がハローワークで行う手続きで、退職代行が代理申請することはできません。 受給の可否・金額・時期は、加入期間や離職理由などご自身の事情によって異なります。
当サイトは制度の概要や考え方を情報として紹介するにとどめ、申請の代行や受給の保証は行いません。 具体的な対象可否や手続きは、ハローワークなどの公的機関や、社会保険労務士をはじめとする専門家にご確認ください。「必ずもらえる」「受給を保証する」といった断定的な案内には十分ご注意ください。
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