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定年後の健康保険は3択ではなく「区間」で考える:任意継続の2年と、75歳の切り替え

定年後の健康保険は「任意継続・国民健康保険・家族の被扶養者の3択」と説明されます。それ自体は正しいのですが、3択を1回選べば終わり、ではありません。

任意継続には2年という上限があり、75歳になると全員が別の制度へ移ります。選ぶのは制度ではなく、区間ごとの並べ方です。

この記事は2026-09-06 時点の公表資料の整理です。保険料額は保険者・市区町村により異なります。実際の手続きは加入先の保険者にご確認ください。

まず3つの選択肢

全国健康保険協会(協会けんぽ)の任意継続(2026-09-06 確認)は、退職後の選択肢をこう示しています。

退職後の健康保険には、「健康保険任意継続」、「国民健康保険」、「ご家族の健康保険(被扶養者)」の3つの選択があります。毎月納める保険料などを比較の上、選択された健康保険にお手続ください。

制度そのものの比較は 退職後の健康保険・年金の手続きと任意継続の選択 にまとめています。ここでは定年に固有の事情を見ます。

区間1:任意継続は「2年」で必ず終わる

健康保険法(2026-09-06 確認)第38条が、任意継続被保険者の資格喪失事由を列挙しています。

一 任意継続被保険者となった日から起算して二年を経過したとき。 二 死亡したとき。 三 保険料(初めて納付すべき保険料を除く。)を納付期日までに納付しなかったとき(納付の遅延について正当な理由があると保険者が認めたときを除く。)。 四 被保険者となったとき。 五 船員保険の被保険者となったとき。 六 後期高齢者医療の被保険者等となったとき。 七 任意継続被保険者でなくなることを希望する旨を、厚生労働省令で定めるところにより、保険者に申し出た場合において、その申出が受理された日の属する月の末日が到来したとき。

1号の2年が上限です。 60歳定年で任意継続を選んだ場合、62歳で必ず次の選択が来ます。65歳定年なら67歳です。任意継続は終点ではなく、2年間の橋と考えるのが実際に近い形になります。

7号にも注目です。本人の申出でやめられます。 かつては保険料を払わない以外に抜ける方法がありませんでしたが、現在は申出による資格喪失が条文に置かれています。国民健康保険の保険料が下がる年に切り替える、という組み替えができます。

入口の条件は第3条4項と第37条です。3条4項は資格喪失の日の前日まで継続して2か月以上被保険者だったことを求め、37条1項が申出の期限を定めています。

第三条第四項の申出は、被保険者の資格を喪失した日から二十日以内にしなければならない。ただし、保険者は、正当な理由があると認めるときは、この期間を経過した後の申出であっても、受理することができる。

20日以内です。ただし書きで、正当な理由があると認められれば期間経過後の申出も受理できる、と続きます。

保険料は「上限」で頭打ちになる

健康保険法第47条1項は、任意継続被保険者の標準報酬月額を「退職時の標準報酬月額」と「全被保険者の平均額」のいずれか少ない額とする、と定めています。協会けんぽの場合、この平均額に対応する上限が標準報酬月額32万円です。

在職中は会社と折半でしたが、退職後は事業主負担分も自分で払います。ただし32万円で頭打ちになるため、給与が高かった人ほど「単純に2倍」にはなりません。 前納すれば年4%(複利現価法)の割引もあります。

条文の逐語引用と計算の手順は 任意継続の保険料はどう決まるか にまとめてあるので、ここでは繰り返しません。定年後に効くのは金額そのものより、次の「区間」の見方です。

区間2:家族の被扶養者に入る場合、60歳以上は基準が違う

日本年金機構の従業員が家族を被扶養者にするときの手続き(2026-09-06 確認)が、収入要件を示しています。

年間収入(※1)130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)かつ 同居の場合:収入が扶養者(被保険者)の収入の半分未満 別居の場合:収入が扶養者(被保険者)からの仕送り額未満

60歳以上は130万円ではなく180万円未満です。定年後の収入で判断するときに、ここを130万円で見ていると選択肢を一つ落とします。

もうひとつ、失業給付との関係も明記されています。

また、被扶養者の収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金や出産手当金も含まれますので、ご注意願います。雇用保険の待機期間中でも、収入要件を満たしている場合は被扶養者として認定することが可能です。ただし、基本手当(3,612円以上)の支給が始まった場合は、扶養削除の届出が必要となります。

年金も失業給付も収入に入ります。 ただし、ここに出てくる3,611円・3,612円は130万円基準の数値です(130万円 ÷ 360日 = 約3,611円)。

定年後の読者はほぼ全員が60歳以上なので、当てはめる基準は180万円のほうです。 同じ360日で割ると 180万円 ÷ 360日 = 5,000円。日額5,000円以上の基本手当が始まると年間収入180万円以上の見込みになり、扶養から外れる側に入ります(4,999円なら年179万9,640円で、180万円未満に収まります)。

3,612円で判断しないでください。 これは60歳未満の人の線です。60歳以上でこの数字を使うと、まだ扶養に入れるのに「入れない」と判断して選択肢を1つ落とします。日額そのものは協会けんぽ・日本年金機構の公表資料に60歳以上向けの数値としては明記がないため、境目に近い場合は必ず加入先の保険者に確認してください。

全国健康保険協会(協会けんぽ)の被扶養者資格の再確認について(2026-09-06 確認)も、扶養から外れる基準を「130万円(被扶養者が60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害を有する場合は180万円)以上」と書いています。

定年後の失業給付の受け取り方は 定年後に失業給付と年金は同時に受け取れるか に、扶養に入る条件の詳細は 退職後に家族の扶養に入れるか にまとめました。

区間3:75歳で全員が後期高齢者医療へ

最後の区間は選択の余地がありません。高齢者の医療の確保に関する法律(2026-09-06 確認)第50条です。

一 後期高齢者医療広域連合の区域内に住所を有する七十五歳以上の者 二 後期高齢者医療広域連合の区域内に住所を有する六十五歳以上七十五歳未満の者であつて、厚生労働省令で定めるところにより、政令で定める程度の障害の状態にある旨の当該後期高齢者医療広域連合の認定を受けたもの

75歳になると後期高齢者医療の被保険者になります。健康保険法3条1項7号は、後期高齢者医療の被保険者を健康保険の被保険者から除いており、38条6号は任意継続の資格喪失事由に挙げています。制度の側で自動的に切り替わる、ということです。

定年後に組み立てる順番

  1. 退職日の翌日から20日以内という任意継続の期限を、退職前にカレンダーに書く
  2. 任意継続の保険料(上限32万円で計算)と、市区町村の国民健康保険料を両方見積もる
  3. 家族の被扶養者に入れるか確認する(60歳以上は180万円未満=基本手当なら日額5,000円が境目。3,612円は60歳未満の線)
  4. 2年後にもう一度選び直すことを前提に、1年目・2年目・その後で並べる
  5. 75歳の切り替えは自動

なお、会社都合で辞めた場合に国民健康保険料が下がる仕組みがありますが、これは離職理由で対象が決まります → 会社都合で辞めた人の国民健康保険料が下がる仕組み。退職後に届く納付書の全体像は 退職後に届く納付書は3つ にまとめています。

まとめ

  • 任意継続は2年で必ず終わる(健保法38条1号)。終点ではなく橋
  • 本人の申出でやめられる(同条7号)ので、途中で国民健康保険へ組み替えられる
  • 申出の期限は資格喪失日から20日以内。ただし正当な理由があれば期間経過後も受理され得る
  • 保険料の標準報酬月額は32万円が上限(協会けんぽ)。前納で年4%の割引
  • 家族の被扶養者は60歳以上なら年間収入180万円未満。年金・失業給付も収入に含む
  • 基本手当の日額の境目は、60歳以上なら180万円÷360=5,000円。よく見る3,612円は130万円基準(60歳未満)の数値なので使わない
  • 75歳で後期高齢者医療へ自動的に移る(高齢者医療確保法50条)

決めるのは「どれにするか」ではなく、「どの順番で並べるか」です。

出典(すべて 2026-09-06 に確認)

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