有給が残っていないときに休むとどうなるか:欠勤控除と「減給の制裁」は別物
「有給がもう残っていない。退職日まで休んだら、給料はどうなるのか」。入社1年目や、直前に長く休んだ人からよく出る問いです。
ここで混ざりやすいのが、働かなかった分が支払われないことと、罰として給与を引かれることの2つです。名前も根拠条文も別で、後者には上限があります。この記事では2つを分けて整理します。
この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。実際の控除額や取り扱いは勤務先の賃金規程・就業規則によって変わります。個別の判断は給与担当部署や、労働基準監督署・社会保険労務士など専門家にご確認ください。
働かなかった日の賃金が出ないのは、民法の側の話
出発点は民法624条です。
労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。
働いたことが報酬を請求する前提として書かれています。有給休暇は、労働基準法39条によって「休んでも賃金が支払われる日」を例外的に作る制度です。その残日数が無い状態で休めば、624条の原則に戻ります。これがいわゆる欠勤控除です。
いくら引かれるかについて、条文は金額を決めていません。1日あたりの控除額は、月給を所定労働日数で割る会社が多いものの、計算方法は賃金規程に書かれているものです。就業規則に何を書くかを定めた労働基準法89条2号は次のとおりです。
賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
控除の単価を知りたいなら、探す場所は法令ではなく賃金規程ということになります。
「制裁として引く」場合は上限が条文にある
一方、遅刻や無断欠勤に対して罰として給与を引く扱いは、まったく別の条文が上限を置いています。労働基準法91条です。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
上限が2つ重ねて置かれています。
- 1回の額 … 平均賃金の1日分の半額まで
- 総額 … 一賃金支払期における賃金の総額の10分の1まで
平均賃金の定義は同法12条1項です。
この法律で平均賃金とは、これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいう。(後略)
引用しているのは主文までで、このあとに1号・2号の最低保障の定めが続きます。分母は暦の総日数です。仮に平均賃金の1日分が1万円なら、1回の減給は5,000円までとなり、その月の賃金総額が30万円なら制裁の合計は3万円までとなります。この上限を超える減給は、条文の文言に反します。
なお制裁の定めそのものを就業規則に書くことは89条9号が想定しています。
表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
2つを混同しないための見分け方
給与明細で額が減っていたとき、どちらなのかは次で見分けられます。
| 欠勤控除 | 減給の制裁 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 民法624条(働いていない分) | 労働基準法91条(罰) |
| 性質 | 支払う理由が無い | 支払うべき賃金から罰として引く |
| 上限 | 条文上の上限は無い(休んだ分に対応) | 1回=平均賃金1日分の半額/総額=賃金総額の10分の1 |
| 就業規則の記載 | 89条2号(賃金の計算) | 89条9号(制裁の種類及び程度) |
休んだ日数に対応する分を超えて引かれている場合は、欠勤控除では説明がつきません。制裁として引いているなら91条の上限が効きます。
全額払いの原則も併せて見る
賃金からの控除については24条1項があります。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
原則は全額払いで、控除できるのは法令に定めがある場合か、過半数組合等との書面協定がある場合です。社会保険料や所得税は前者、社宅費や組合費は後者にあたる扱いがされています。「備品を壊したから」「引き継ぎが不十分だったから」といった理由で賃金から差し引く扱いは、この条文の原則から外れます。
有給がゼロでも打てる手
- 本当にゼロか確認する。 付与日数の根拠は 退職時に有給は何日残っている? にあります。基準日の設け方によっては、退職前にもう一度付与される場合があります
- 繰り越し分が残っていないか確認する。 時効の考え方は 有給の繰り越しと時効 に整理しました
- 退職日の置き方を見直す。 次の付与日をまたげば残日数が立ちます(退職日の逆算カレンダー)
- 欠勤で休む場合の控除額を先に計算しておく。 生活費の見通しは 退職後の固定費シミュレーター で並べられます
- 体調が理由なら、傷病手当金の対象になるか確認する。 制度の位置づけは 傷病手当金と失業給付は同時にもらえるか にまとめています
差し引きの根拠が説明されない場合の相談先としては、厚生労働省が各都道府県労働局に置いている総合労働相談コーナーがあります。予約不要・無料の窓口です。
まとめ
- 有給ゼロで休んだ分が支払われないのは、民法624条の「働いた後でなければ請求できない」という原則から
- 欠勤控除の単価は法令ではなく賃金規程に書かれている(労基法89条2号)
- 罰として引く「減給の制裁」は労基法91条が上限を置く。1回=平均賃金1日分の半額/総額=一賃金支払期の賃金総額の10分の1
- 賃金からの控除は24条1項の全額払いが原則で、法令の定めか過半数組合等との書面協定が要る
- ゼロだと思っても、基準日・繰り越し分・退職日の置き方で残ることがある
「引かれている」ではなく「どの条文で引かれているのか」を見ると、話せる相手と話せる内容が決まります。
出典(すべて 2026-09-07 に確認)
- e-Gov 法令検索「労働基準法」第12条第1項・第24条第1項・第89条第2号・第9号・第91条
- e-Gov 法令検索「民法」第624条
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
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