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有給の繰り越しと時効:賃金は5年(当分の間3年)なのに年休が2年である理由

「有給は2年で消える」という説明は広く知られていますが、同じ労働基準法で「賃金の請求権は5年」とも書かれています。同じ法律の同じ条文に、2つの年数が並んでいるのがこの話のわかりにくさの正体です。

退職前は繰り越し分が残っているかどうかで消化できる日数が変わります。この記事では、時効の条文を最後まで読んで、どちらの年数がどこにかかるのかを分けます。

この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。実際に何日繰り越されているかは、付与基準日・出勤率・会社の管理方法によって変わります。個別の日数は勤務先の就業規則や、労働基準監督署・社会保険労務士など専門家にご確認ください。

時効の条文は1本しかない

労働基準法115条です。

この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

1文の中に2つの区分が入っています。

区分 年数
賃金の請求権 5年間
災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。) 2年間

年次有給休暇を取る権利は、金銭を請求する権利ではなく「休暇を与えてもらう」権利です。そのため「賃金の請求権」ではない側、つまり後段の2年間にあたるという整理がされています。これが「有給は2年」と言われる根拠です。

5年の方には、さらに経過措置がかぶっている

前段の「賃金の請求権は5年」については、附則143条3項が読み替えを置いています。

第百十五条の規定の適用については、当分の間、同条中「賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間」とあるのは、「退職手当の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)の請求権はこれを行使することができる時から三年間」とする。

「当分の間」という書き出しで、次のように読み替えられています。

  • 退職手当の請求権 … 5年間
  • 退職手当を除く賃金の請求権 … 3年間

未払い残業代などの話で「3年」と説明されるのはここです。一方、後段の2年間(賃金以外の請求権)については、この読み替えの対象になっていません。 つまり、

  • 賃金 … 5年 → 当分の間3年
  • 退職手当 … 5年(据え置き)
  • 年次有給休暇を含む賃金以外の請求権 … 2年

という並びになります。「賃金が3年に伸びたのだから有給も伸びたのでは」と読めそうなところですが、条文の読み替えは賃金の側にしか掛かっていません。

繰り越しは「2年で使い切る」形になる

年休は労働基準法39条によって毎年付与されます。1項は次のとおりです。

使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

付与された年に使わなかった分が翌年に残るのは、115条後段の2年間という時効の裏返しだという整理がされています。その年に付与された分と、前年から繰り越された分の2年分が、同時に手元にある状態が通常の形になります。

したがって、勤続6年6か月以上で毎年20日付与されている人が2年間まったく取らなかった場合、手元にある日数はその年の20日+前年からの繰り越し20日という並びになります。ただし、繰り越しの上限を就業規則で別に定めている会社もあるため、実際の残日数は管理簿で確認するのが確実です。

なお、どちらから先に消化するか(新しい年の分か、繰り越し分か)を定めた条文はありません。会社の取り扱いによります。 繰り越し分から先に使う運用でなければ、古い方から時効で落ちていくことになるため、退職前は確認しておくとよい点です。

残日数を確かめる書類は決まっている

自分の付与日・取得日・残日数を確認する書類として、労働基準法施行規則24条の7が年次有給休暇管理簿を定めています。

使用者は、法第三十九条第五項から第七項までの規定により有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む。)を労働者ごとに明らかにした書類(第五十五条の二及び第五十六条第三項において「年次有給休暇管理簿」という。)を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後五年間保存しなければならない。

保存期間の「五年間」には、同規則附則71条が読み替えを置いています。

第十七条第二項、(中略)第二十四条の七及び第三十四条の二第十五項第四号の規定の適用については、当分の間、これらの規定中「五年間」とあるのは、「三年間」とする。

当分の間3年間です。ここでも「当分の間」の読み替えが入っている点は、115条と同じ形です。

退職前に確認する4つのこと

  1. 付与基準日を確認する。 全社一斉の基準日を置いている会社では、入社6か月ちょうどとは限りません
  2. 管理簿を見せてもらう。 時季・日数・基準日が労働者ごとに記録されている書類です
  3. 前年分の残りがあるか確認する。 2年分が同時にある状態が通常の形です
  4. どちらから消化する運用かを確認する。 条文に定めが無いため、会社の取り扱い次第です

日数そのものの根拠は 退職時に有給は何日残っている?、消化に入る日付の並べ方は 有給を全部使って出社ゼロで辞められるか にまとめています。余りそうな場合の扱いは 有給の買取はできるのか が参考になります。

管理簿を見せてもらえない、示された日数の根拠が説明されないといった場合は、厚生労働省が各都道府県労働局に置いている総合労働相談コーナーが相談先になります。

まとめ

  • 時効の条文は115条の1本で、賃金の請求権=5年/それ以外の請求権=2年と書き分けられている
  • 年休は金銭ではなく休暇を与えてもらう権利なので、後段の2年にあたるという整理
  • 附則143条3項は賃金の側だけを読み替え、退職手当5年/退職手当を除く賃金3年(当分の間)とする。2年の側は読み替えの対象外
  • したがって手元には通常、その年の付与分と前年からの繰り越し分の2年分がある
  • どちらから消化するかを定めた条文は無く、会社の取り扱いによる
  • 管理簿の保存は施行規則24条の7で5年間、附則71条により当分の間3年間

「有給も3年に伸びた」と言われたら、読み替えが掛かっているのが条文のどちら側かを見てください。

出典(すべて 2026-09-07 に確認)

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