退職する年の「年5日」はどうなるか:労働基準法39条7項・8項と罰則を読む
「年5日は必ず取らせることになっている」。2019年から入ったこの決まりを、退職する年にも当てはめてよいのか。会社から「辞めるまでに5日は消化してほしい」と言われて戸惑う人もいます。
この記事では、年5日の義務が誰に課され、何を数え、どこまでを対象にしているのかを、条文にあたって整理します。
この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。年度の途中で退職する場合の具体的な取り扱いは、基準日の設け方や勤務先の運用によって変わります。個別の判断は勤務先の就業規則や、労働基準監督署・社会保険労務士など専門家にご確認ください。
義務を負っているのは会社の側
根拠は労働基準法39条7項です。括弧書きとただし書きまで含めて引きます。
使用者は、第一項から第三項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が十労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち五日については、基準日(継続勤務した期間を六箇月経過日から一年ごとに区分した各期間(最後に一年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から一年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。ただし、第一項から第三項までの規定による有給休暇を当該有給休暇に係る基準日より前の日から与えることとしたときは、厚生労働省令で定めるところにより、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。
条文の主語は「使用者は」です。労働者に「5日取らなければならない」と書いた条文ではありません。義務を負うのは会社側で、内容は「労働者ごとに時季を定めて与える」ことです。
対象になるのは括弧書きのとおり、付与日数が10労働日以上の人に限られます。付与日数が10日に届かない短時間勤務の人は、この項の対象外です。日数の根拠は 退職時に有給は何日残っている? にまとめています。
自分で取った分は、その分だけ差し引かれる
会社が5日を指定して与えなければならない、と聞くと「自分で申請して取った日も含めて、さらに5日指定されるのか」という疑問が出ます。ここを解いているのが8項です。
前項の規定にかかわらず、第五項又は第六項の規定により第一項から第三項までの規定による有給休暇を与えた場合においては、当該与えた有給休暇の日数(当該日数が五日を超える場合には、五日とする。)分については、時季を定めることにより与えることを要しない。
5項は労働者が請求する時季に与える場合、6項は労使協定による計画的付与の場合です。そのどちらかで与えた日数の分だけ、会社が時季を定める必要が無くなるという構造です。
つまり、自分から申請して既に5日以上取っていれば、会社側が指定すべき日数はゼロになります。 退職前にまとまった消化に入る人の場合、多くはこの形で埋まります。
なお、7項が対象にしているのは条文上「第一項から第三項までの規定による有給休暇」の日数です。時間を単位として与える有給休暇を定めた4項は、7項の列挙に挙げられていません。 半日単位・時間単位の扱いは 半日単位・時間単位の有給は退職前に使えるか で整理しています。
時季を決めるとき、会社は本人の意見を聴く
7項の「時季を定める」をどう進めるかは、労働基準法施行規則24条の6が定めています。
使用者は、法第三十九条第七項の規定により労働者に有給休暇を時季を定めることにより与えるに当たつては、あらかじめ、同項の規定により当該有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない。
使用者は、前項の規定により聴取した意見を尊重するよう努めなければならない。
1項が「意見を聴かなければならない」、2項が「尊重するよう努めなければならない」です。聴くことは義務、尊重は努力義務という書き分けになっています。会社が一方的に日付だけ通知してくる形は、1項の想定とは違います。
守られなかった場合の罰則
7項に違反した場合について、120条が罰則を置いています。
次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。
一 第十四条、第十五条第一項若しくは第三項、第十八条第七項、第二十二条第一項から第三項まで、第二十三条から第二十七条まで、(中略)第三十九条第七項、(後略)
39条7項が罰則の対象条文として名指しされています。 罰則の対象は「使用者」であって、5日取らなかった労働者ではありません。ここでも義務の向きは一貫しています。
退職する年に効いてくる点
条文が数える期間は「基準日から一年以内の期間」です。基準日は7項の括弧書きのとおり、継続勤務を6か月経過日から1年ごとに区切った各期間の初日を指します。全社一斉の基準日を設けている会社では、就業規則にその日が書かれています。
その1年が終わる前に退職する場合、期間の途中で在籍が終わることになります。 条文はこの場合の扱いを直接書いていないため、実務の取り扱いには幅があります。この記事では条文から出ない結論は書きません。会社から説明を求められたときは、基準日がいつで、その1年のうち何日を既に取得しているかを管理簿で確認するところから始めるのが確実です。
条文の外側になりますが、厚生労働省の解説「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(2023年8月版)には、近い場面の設問が2つあります。ひとつは休職している労働者についてで、期間中に一度も復職しなかった場合など「使用者にとって義務の履行が不可能な場合には、法違反を問うものではありません」とされています。もうひとつは年度の途中に育児休業から復帰した労働者についてで、「残りの期間における労働日が、使用者が時季指定すべき年次有給休暇の残日数より少なく、5日の年次有給休暇を取得させることが不可能な場合には、その限りではありません」とされています。
この解説に退職を扱った設問はありません。 ただし、上の2つはいずれも「残りの期間で物理的に取れるか」を軸に置いています。年度の途中で退職する場合も、まず基準日から退職日までに何日の所定労働日が残っているかを数えるのが、会社と話す出発点になります。
管理簿については施行規則24条の7があります。
使用者は、法第三十九条第五項から第七項までの規定により有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日(第一基準日及び第二基準日を含む。)を労働者ごとに明らかにした書類(第五十五条の二及び第五十六条第三項において「年次有給休暇管理簿」という。)を作成し、当該有給休暇を与えた期間中及び当該期間の満了後五年間保存しなければならない。
時季・日数・基準日を労働者ごとに記録した書類を作ることとされています。自分の基準日と取得日数は、ここを見れば確認できます(保存期間は同規則附則71条により当分の間3年とされています)。
年休の取得促進についての一般的な情報は、厚生労働省の働き方・休み方改善ポータルサイトにまとまっています。
まとめ
- 39条7項の主語は「使用者は」。義務を負うのは会社側で、労働者に取得を義務づけた条文ではない
- 対象は付与日数が10労働日以上の人(7項括弧書き)
- 8項により、5項・6項で与えた日数の分だけ会社が指定する必要が無くなる。自分で5日以上取っていれば指定は不要になる
- 7項が挙げているのは1項から3項の有給休暇の日数で、4項の時間単位年休は列挙に入っていない
- 施行規則24条の6により、意見を聴くのは義務、尊重は努力義務
- 120条1号で39条7項は罰則(30万円以下の罰金)の対象条文に挙げられている
「5日取らないと自分が罰せられる」という話ではありません。条文の向きを確認すると、会社との話し方も変わります。
出典(すべて 2026-09-07 に確認)
- e-Gov 法令検索「労働基準法」第39条第4項・第7項・第8項・第120条第1号
- e-Gov 法令検索「労働基準法施行規則」第24条の6・第24条の7・附則第71条
- 厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(2023年8月版)
- 厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」
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