有給の申請はいつ・どう出すか:「時季を請求した」ことを記録に残す
退職前の有給消化は、たいてい「いつから休みます」と伝えるところから始まります。ところが、申請書の様式も、何日前までに出すかも、法律には書かれていません。
条文が決めているのは「請求する時季に与えなければならない」という会社側の義務だけです。
この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。申請の手順や期限は勤務先の就業規則によって定められています。個別の取り扱いは勤務先の規程や、労働基準監督署・社会保険労務士など専門家にご確認ください。
条文が書いているのは「時季」だけ
労働基準法39条5項です。ただし書きまで引きます。
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
出てくる言葉は「労働者の請求する時季」です。理由を述べることも、様式に従うことも、条文の要件になっていません。 退職理由の伝え方と同じで、ここは条文が要求していない部分です(退職理由の伝え方)。
一方、手続きの決まりが無いわけではありません。就業規則に何を書くかを定めた89条1号にこうあります。
始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
「休暇……に関する事項」が入っています。申請の期限や様式は、法令ではなく就業規則の側で決まっているという構造です。「3営業日前までに所定の様式で」といった定めがあれば、それに沿って出すのが揉めない進め方になります。
伝わった時点で効力が生じる
申請をメールで出してよいか、口頭でよいかという問いには、民法97条1項が関係します。
意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
相手方が正当な理由なく意思表示の通知が到達することを妨げたときは、その通知は、通常到達すべきであった時に到達したものとみなす。
「到達した時」が基準です。手渡しでもメールでも、相手に届いていれば到達しています。2項は、相手が正当な理由なく到達を妨げた場合についても定めを置いています。
問題になるのは効力ではなく、到達したことを後から示せるかです。口頭だけだと「聞いていない」という食い違いが起きます。退職の申し出について同じ論点を扱ったのが 口頭で伝えた退職は有効か と 退職の申し出はメールやLINEでもいいのか です。
記録に残す出し方
- 就業規則の様式があれば、それで出す。 そのうえで、控えを1部残すか写真を撮っておきます
- 様式が無ければメールで出す。 送信済みフォルダに残ります
- 口頭で伝えた場合も、あとからメールで確認を送る。 「先ほどお伝えした件、下記のとおりで進めます」と書くだけで記録になります
- 社内チャットで出した場合は、スクリーンショットを取っておく。 退職後はアカウントが使えなくなります
- 宛先を、就業規則で決まっている相手にする。 上長なのか人事なのかを確認します
メールに入れておくと後で困らない項目は次のとおりです。
- 消化する期間(開始日と終了日)
- 消化する日数と、その根拠になる残日数
- 退職日
- 最終出社日
- 消化中の連絡先
退職日と最終出社日を両方書いておくと、社会保険の手続きや書類の送付でのすれ違いが減ります。日付の並べ方は 有給を全部使って出社ゼロで辞められるか、逆算は 退職日の逆算カレンダー で確認できます。
会社側から時季を指定されている場合
年5日の取得義務にもとづいて会社が時季を定める場合は、手順が別に決まっています。労働基準法施行規則24条の6です。
使用者は、法第三十九条第七項の規定により労働者に有給休暇を時季を定めることにより与えるに当たつては、あらかじめ、同項の規定により当該有給休暇を与えることを当該労働者に明らかにした上で、その時季について当該労働者の意見を聴かなければならない。
使用者は、前項の規定により聴取した意見を尊重するよう努めなければならない。
意見を聴くのは義務、尊重は努力義務という書き分けです。年5日の仕組み全体は 退職する年の「年5日」はどうなるか にまとめています。
返事が来ないときに何を確認するか
申請を出したのに返事が無い、という状態は退職前に起きがちです。確認する順番は次のとおりです。
- 就業規則の承認手続きを確認する。 承認が要る定めなのか、届出でよいのかで扱いが変わります
- 到達しているかを確かめる。 送信済みの記録があれば、民法97条1項でいう到達の事実は示せます
- 時季変更の申し出があったかを確認する。 39条5項ただし書きは「他の時季にこれを与えることができる」と定めており、他の時季を示さずに単に断ることは、この文言の形とは違います
- 記録を残したまま話す。 口頭の回答も、メールで確認を送っておきます
拒否された場合の考え方は 退職前の有給消化を会社は拒否できるか に整理しました。話が進まない場合は、厚生労働省が各都道府県労働局に置いている総合労働相談コーナーが相談先になります。就業規則の一般的な書きぶりは、厚生労働省のモデル就業規則についてで確認できます。
まとめ
- 39条5項が書いているのは「労働者の請求する時季」だけ。理由も様式も条文の要件ではない
- 申請の期限や様式は、就業規則の側で決まっている(89条1号の「休暇に関する事項」)
- 民法97条1項により、意思表示は到達した時に効力を生じる。2項は到達を妨げられた場合も定めている
- 効力より問題になるのは到達を示せるかなので、メールか控えで記録を残す
- 書いておくのは消化期間・日数・退職日・最終出社日・連絡先
- 会社が年5日で時季を定める場合は、施行規則24条の6により意見を聴くのが義務
申請そのものより、「出した記録が残っているか」が後で効きます。
出典(すべて 2026-09-07 に確認)
- e-Gov 法令検索「労働基準法」第39条第5項・第89条第1号
- e-Gov 法令検索「労働基準法施行規則」第24条の6
- e-Gov 法令検索「民法」第97条第1項・第2項
- 厚生労働省「モデル就業規則について」
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
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