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退職前の有給消化を会社は拒否できるか:時季変更権の条文を読む

「退職前にまとめて有給を使いたいと伝えたら、忙しいから無理だと言われた」。退職の相談で最も多く出てくる衝突のひとつです。ここで問題になるのは、会社が有給を断ることについて法律がどこまで書いているのか、という点です。

断定的な結論を出すのではなく、条文の文言そのものを見ていきます。

この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。個別の事案でどのような扱いになるかは、業務の内容・代替要員の有無・請求の時期など具体的な事情によって判断されます。実際の対応は弁護士・社会保険労務士など専門家、または労働局の相談窓口にご確認ください。

条文は「請求する時季に与えなければならない」から始まる

中心にあるのは労働基準法39条5項です。一文のなかに本文と但書が入っているので、まず全体を引きます。

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

構造は2段です。

部分 条文が定めていること
本文 使用者は、労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければならない
但書 請求された時季に与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季にこれを与えることができる

読み取れるのは、原則は労働者が請求した時季であり、但書は「他の時季に与えることができる」という時季を移す権限を定めたもので、「与えないことができる」とは書かれていない、ということです。この但書の権限が、一般に時季変更権と呼ばれています。

「他の時季」が退職日より後に無い場合を条文は直接書いていない

ここが退職時に特有の論点になります。

在職中であれば、7月に請求された休暇を9月に移す、という形で「他の時季」を指定する余地があります。ところが退職日が決まっていて、その日を過ぎれば雇用関係そのものが無くなる場合、移す先の時季が存在しないという状態が起こりえます。

この場合にどうなるかを、39条5項は直接には書いていません。 条文が書いているのは「他の時季にこれを与えることができる」までです。移す先が無いときの帰結は、条文の文言からは一義的に出てきません。

したがって、ここで「必ず認められます」「拒否は違法です」と言い切ることはできません。実際の判断は、個別の事情をふまえて労働局・裁判所などが行うことになります。この記事でできるのは、条文が原則を労働者の請求する時季に置いていること、但書が定めているのは変更であって不付与ではないことの2点を示すところまでです。

退職時に効いてくる別の条文

有給の未消化分が金銭に振り替わるかどうかとは別に、退職時の支払い一般については23条が定めを置いています。

1 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。 2 前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。

権利者の請求があった場合は7日以内、そして争いがある部分があっても、異議のない部分は同じ期間内に支払うという組み立てです。争点が残っていることが、支払い全体を止める理由にはならない構造になっています。

賃金の請求権については115条が時効を定めています。

この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

また、退職時に事実関係を書面で残しておきたい場合には22条が使えます。

1 労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。 3 前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。

話が進まない時にどこへ相談するか

社内でのやりとりが止まってしまった場合、公的な相談窓口があります。

  • 厚生労働省 総合労働相談コーナー:各都道府県労働局・労働基準監督署内などに設けられている窓口です。予約不要・無料で、労働問題全般の相談を受け付けています。
  • 就業規則を確認する:有給の請求手続き(何日前までに届け出るか等)が定められていることがあります。厚生労働省のモデル就業規則についてのページに、一般的な条文例が公開されています。
  • やりとりを記録に残す:いつ、誰に、どの日付を請求し、どう回答されたかを時系列でメモしておくと、後で相談する時に話が早くなります。

労働基準監督署に相談した場合に何が起きるのかは 労働基準監督署に相談したら辞められる? に、申し出から退職日までの日数の数え方は 退職を申し出てから何日で辞められる? にまとめています。残日数と退職日の関係を先に見ておきたい場合は 退職日の逆算カレンダー で、有給の残日数から最終出社日の目安を出せます。拒否されたと後から言われないための申し出の出し方と記録の残し方は 有給の申請はいつ・どう出すか にまとめています。

まとめ

  • 39条5項の本文は、有給を労働者の請求する時季に与えなければならないと定めている
  • 但書が定めているのは「他の時季にこれを与えることができる」という時季の変更であり、不付与ではない
  • 退職日以降に「他の時季」が無い場合の帰結は、条文が直接には書いていない。ここを断定できる書き方は条文からは出てこない
  • 23条により、権利者の請求があれば7日以内、争いがある場合も異議のない部分は同じ期間内に支払うこととされている
  • 社内で止まったら、厚生労働省の総合労働相談コーナーが無料の相談先になる

条文の原則がどちら側に置かれているかを知っておくだけで、話し合いの前提は整理しやすくなります。

退職後の給付金(失業給付)について

有給の消化と給付の時期を合わせて考えたい人もいるかもしれませんが、注意が必要です。失業給付(雇用保険の基本手当)の申請は、退職後にご本人がハローワークで行う手続きで、退職代行が代理申請することはできません。 受給の可否・金額・時期は、加入期間や離職理由などご自身の状況によって異なります。

当サイトは制度の概要や考え方を情報として紹介するにとどめ、申請の代行や受給の保証は行いません。 具体的な対象可否や手続きは、ハローワークなどの公的機関や、社会保険労務士をはじめとする専門家にご確認ください。「必ずもらえる」「受給を保証する」といった断定的な案内には十分ご注意ください。

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