退職の挨拶をしない・送別会を辞退したいとき:手続きは止まらない
「挨拶回りをしたくない」「送別会は断りたい」「そもそも挨拶をさせてもらえそうにない」。マナーの記事はたいてい挨拶をする前提で書かれているので、ここで手が止まる人は多いと思います。
結論だけ先に言うと、挨拶をしなくても手続きは変わりません。そのうえで、気持ちの面で残せる手段を並べます。
この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。実際の扱いは就業規則や個別の事情によって異なります。トラブルになっている場合は労働基準監督署や弁護士など専門家にご相談ください。
退職の効力は、挨拶と結びついていない
民法627条1項は、期間の定めのない雇用について次のように定めています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
効果が結びつけられているのは「期間の経過」だけです。挨拶・送別会・お菓子は、この条文のどこにも出てきません。つまり、挨拶をしなかったことで退職日が動くことはありません。
同じことは逆向きにも言えます。挨拶をさせてもらえなかった、送別の場が用意されなかった。それも退職の効力とは無関係です。手続きは進みます。
お金と物のやりとりも、挨拶とは別立て
労働基準法23条は次のように定めています。
第二十三条 使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。
「権利者の請求があつた場合においては、七日以内に」と書かれています。ここでも条件は請求であって、挨拶の有無ではありません。
さらに、労基法22条1項には退職時の証明の定めがあります。
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
請求すれば、遅滞なく交付しなければならないとされています。挨拶回りをしていないから出してもらえない、という構造にはなっていません。受け取るものの全体像は 退職時に受け取る書類一覧 にまとめました。
出社しない形になることは実際に起きる
有給を残したまま辞める場合、最終出社日以降は職場に行きません。この時点で、挨拶回りという場面そのものが無くなります。
有給の消化を会社が拒めるかという論点は 退職前の有給消化を会社は拒否できるか で条文にあたって扱いました。残日数の数え方は 退職時に有給は何日残っている? にあります。
つまり、「挨拶をしない」は特殊な選択ではなく、日程の組み方によって普通に起きる状態です。
代わりに残せるもの
とはいえ、何も言わずに終わることに引っかかる場合もあると思います。その場合、口頭以外の手段があります。
エン転職の退職の挨拶(スピーチ、メール、手紙等)のポイントは?(2026-09-05 確認)は、手紙はメールより「より丁寧な印象を与える」方法とし、取引先の役職者や士業、医師など地位の高い方に対して推奨されるとしています。ビジネスレターの形式(「拝啓」「敬具」や時候の挨拶)に準拠することが必須だとも書かれています。
メールであれば、その場にいなくても送れます。 件名・宛先(BCC)・送信時間の作法は 退職の挨拶メールの書き方 に整理しました。
| 手段 | 出社が要るか | 向いている相手 |
|---|---|---|
| 口頭・スピーチ | 要る | その場にいる同僚 |
| メール | 要らない | 社内全体・他部署 |
| 手紙 | 要らない | 社外の役職者など |
| 何もしない | 要らない | ─(手続きには影響しない) |
送別会を辞退したいとき
送別会は、業務でも退職の要件でもありません。断ることで手続きが止まる仕組みは、上に見たとおり条文のどこにもありません。
実務的に効くのは、理由を長く説明しないことだと思います。dodaの【例文あり】退職挨拶メールやスピーチのマナー(2026-09-05 確認)は、退職理由について「一身上の都合」で十分としており、「グチや恨み言はNG」ともしています。辞退の場面でも同じで、理由を足すほど話が長くなります。
贈り物を用意する側から見た段取りは 退職の餞別・記念品ののし にまとめました。送り出す側は最終出社日に合わせて動いているので、辞退するなら早めに伝えるほど互いの手間が減ります。挨拶の時期そのものの目安は 退職の挨拶はいつ・誰に をご覧ください。
まとめ
- 民法627条1項が効果を結びつけているのは期間の経過だけ。挨拶は退職の要件ではない
- 労基法23条の7日以内の支払・返還も、22条1項の退職時の証明も、条件は「請求」であって挨拶ではない
- 有給を消化すれば、挨拶回りの場面そのものが無くなることは普通に起きる
- 口頭以外にメール・手紙という手段がある
- 辞退するときは理由を足さない。送り出す側は最終出社日で動いているので、早めに伝える
挨拶をするかしないかは、手続きの問題ではなく、自分がどう終わりたいかの問題です。そこだけ切り分けておくと、決めやすくなると思います。
出典(すべて 2026-09-05 に確認)
- e-Gov 法令検索「民法」627条1項
- e-Gov 法令検索「労働基準法」22条1項・23条
- エン転職「退職の挨拶(スピーチ、メール、手紙等)のポイントは?」
- doda「【例文あり】退職挨拶メールやスピーチのマナー」
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