退職金の税金は?所得税法30条の退職所得控除を条文で計算する
「退職金が出ることになったが、そこからどれだけ引かれるのかがわからない」。金額が大きいぶん、手取りの見当がつかないまま退職日を迎えるのは落ち着かないものです。
退職金の税金は、他の所得と比べてかなり手厚い扱いが法律に書かれています。この記事では、その扱いを所得税法30条の条文にあたって確認します。 計算の骨組みがわかれば、通知された金額を自分で検算できます。
この記事は一般的な情報の整理であり、税務助言ではありません。実際の税額は、退職所得の受給に関する申告書の提出の有無、同じ年の他の退職手当等の有無、役員としての勤続の有無などによって変わります。具体的な金額は税務署や税理士にご確認ください。
退職金は「退職所得」という別枠にある
まず所得税法30条1項が、対象を定義しています。
退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(以下この条において「退職手当等」という。)に係る所得をいう。
「退職により一時に受ける給与」が退職所得です。毎月の給与とは別の枠で計算されます。
控除額は勤続年数から出る
金額の中心が3項です。
3 前項に規定する退職所得控除額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とする。 一 政令で定める勤続年数(以下この項及び第七項において「勤続年数」という。)が二十年以下である場合 四十万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額 二 勤続年数が二十年を超える場合 八百万円と七十万円に当該勤続年数から二十年を控除した年数を乗じて計算した金額との合計額
計算式は2本だけです。
- 20年以下 … 40万円 × 勤続年数
- 20年超 … 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
条文の式にそのまま年数を入れると、こうなります。
| 勤続年数 | 計算 | 退職所得控除額 |
|---|---|---|
| 5年 | 40万円 × 5 | 200万円 |
| 10年 | 40万円 × 10 | 400万円 |
| 20年 | 40万円 × 20 | 800万円 |
| 25年 | 800万円 + 70万円 × 5 | 1,150万円 |
| 30年 | 800万円 + 70万円 × 10 | 1,500万円 |
| 35年 | 800万円 + 70万円 × 15 | 1,850万円 |
20年を境に、1年あたりの控除が40万円から70万円に上がるのが、この条文の設計です。
なお、勤続年数そのものの数え方は条文が「政令で定める勤続年数」としています。端数の扱いなど細かい部分は法律の条文には書かれていないため、ここでは触れません。
控除しきれない分は、さらに2分の1になる
控除を引いたあとの扱いが2項です。
2 退職所得の金額は、その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額の二分の一に相当する金額(当該退職手当等が、短期退職手当等である場合には次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額とし、特定役員退職手当等である場合には当該退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額に相当する金額とする。)とする。
原則は「収入金額 − 退職所得控除額」の残額の2分の1が退職所得の金額になる、という組み立てです。控除で引き、さらに半分にする。これが退職所得が手厚いと言われる理由にあたります。
勤続5年以下は扱いが変わる
同じ2項のかっこ書きが指している「短期退職手当等」の定義が4項です。
4 第二項に規定する短期退職手当等とは、退職手当等のうち、退職手当等の支払をする者から短期勤続年数(前項第一号に規定する勤続年数のうち、次項に規定する役員等以外の者としての政令で定める勤続年数が五年以下であるものをいう。第七項において同じ。)に対応する退職手当等として支払を受けるものであつて、次項に規定する特定役員退職手当等に該当しないものをいう。
勤続年数が5年以下の場合が短期退職手当等です。この場合の金額の出し方が2項1号・2号に書かれています。
一 当該退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額が三百万円以下である場合 当該残額の二分の一に相当する金額 二 前号に掲げる場合以外の場合 百五十万円と当該退職手当等の収入金額から三百万円に退職所得控除額を加算した金額を控除した残額との合計額
読み解くと、控除後の残額が300万円以下の部分までは2分の1、それを超える部分は2分の1にならないという線が300万円のところに引かれています。
| 区分 | 条文が定める金額 |
|---|---|
| 短期退職手当等以外 | 控除後の残額の2分の1 |
| 短期退職手当等・残額300万円以下 | その残額の2分の1(2項1号) |
| 短期退職手当等・残額300万円超 | 150万円+(収入金額 −(300万円+控除額))(2項2号) |
さらに6項2号は、控除額に下限を置いています。
6 二 第三項及び前号の規定により計算した金額が八十万円に満たない場合(次号に該当する場合を除く。) 八十万円
計算した控除額が80万円に満たない場合は80万円、という定めです。勤続1年(40万円)でも、この号により80万円まで持ち上がると読めます。
条文に書かれていない部分
この記事では、条文の文言から出せる範囲だけを扱っています。次の点は、法律の条文そのものには書かれていません。
- 勤続年数の具体的な数え方(3項1号が「政令で定める勤続年数」としています)
- 特定役員退職手当等の範囲(役員等としての勤続年数の定義が政令に委ねられています)
- 退職所得の受給に関する申告書を出さなかった場合の源泉徴収の扱い
これらを確認したい場合は、国税庁の案内や税務署に直接あたるのが確実です。退職時に受け取る書類の全体像は 退職時に会社から受け取る書類一覧 に、退職後にかかってくるもう一つの税金については 住民税は退職後どう払う? にまとめています。
なお、退職手当も労働基準法11条にいう賃金にあたる場合は、退職時の支払いについて同法23条(権利者の請求があった場合は7日以内)の枠に入ってくる可能性があります。支払時期の定めは、勤務先の就業規則を確認してください(労働基準法89条3号の2は、退職手当の定めをする場合は支払の時期を就業規則に記載することとしています)。就業規則の一般的な条文例は厚生労働省のモデル就業規則についてで公開されています。そもそも退職金の定めが無い会社がどう位置づけられるかは 退職金がない会社は違法か で同じ89条から整理しています。
まとめ
- 30条1項により、退職金は「退職により一時に受ける給与」として退職所得という別枠で扱われる
- 30条3項の控除額は、20年以下=40万円×年数/20年超=800万円+70万円×(年数−20)
- 勤続20年で800万円、30年で1,500万円と、20年を境に1年あたりの控除が40万円から70万円に上がる
- 30条2項により、控除後の残額はさらに2分の1になる(短期退職手当等は300万円の線で扱いが分かれる)
- 30条4項の短期退職手当等=勤続5年以下、30条6項2号により控除額の下限は80万円
自分の勤続年数を式に入れるだけで、控除額はその場で出ます。まずそこから見積もるのが早道です。
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