住民税は退職後どう払う?地方税法の条文で仕組みを確認
「退職したあとに、住民税の納付書が急に届いて驚いた」。これは退職まわりで最も多い"想定外の出費"のひとつです。給与から自動的に引かれていたものが、辞めたとたんに自分で払うものに変わる。しかも金額がまとまっています。
仕組みを先に知っておけば、退職日を決める段階で備えられます。
この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言・税務助言ではありません。住民税の税額や徴収方法の取り扱いは、お住まいの市区町村によって運用が異なる場合があります。具体的な金額や手続きは、市区町村の住民税担当窓口にご確認ください。
給与天引きは「特別徴収」という仕組み
在職中、住民税は給与から天引きされています。これを特別徴収といい、会社が「特別徴収義務者」として本人に代わって納入する形です。地方税法321条の5第1項の該当部分を条文のまま引きます。
前条の特別徴収義務者は、(略)当該通知に係る給与所得に係る特別徴収税額の十二分の一の額を六月から翌年五月まで、(略)それぞれ給与の支払をする際毎月徴収し、その徴収した月の翌月の十日までに、これを当該市町村に納入する義務を負う。(同項には、特別徴収税額が均等割額に相当する金額以下である場合に最初に徴収すべき月に全額を徴収する旨のただし書が続きますが、本記事の主題と別論点のため略しました)
「六月から翌年五月まで」。ここが重要です。住民税の年度は、6月から翌年5月までの12回で区切られています。1月から12月ではありません。
そして前年の所得に対して課税されるため、辞めたあとに払う住民税は、働いていた期間の所得にかかっているものです。収入がなくなっても、支払いは残ります。
退職すると、その後の分はどうなるか
会社が徴収しなくなった分の扱いを定めているのが、同条2項です。長い条文ですが、前半を引きます。
前項の特別徴収義務者は、前条の規定によりその者が徴収すべき給与所得に係る特別徴収税額に係る個人の市町村民税の納税義務者が当該特別徴収義務者から給与の支払を受けないこととなつた場合には、その事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額(略)は、これを徴収して納入する義務を負わない。
給与の支払を受けなくなった月の翌月以降の分について、会社は徴収・納入の義務を負わないという定めです。つまり、残った分は本人が自分で納める(普通徴収)という形に切り替わります。市区町村から納付書が届くのは、このためです。
1月〜4月に辞めると「一括徴収」になることがある
同じ2項の但書に、退職時期による特則が置かれています。
ただし、その事由が当該年度の初日の属する年の六月一日から十二月三十一日までの間において発生し、かつ、総務省令で定めるところによりその事由が発生した日の属する月の翌月以降の月割額を特別徴収の方法によつて徴収されたい旨の納税義務者からの申出があつた場合及びその事由がその年の翌年の一月一日から四月三十日までの間において発生した場合には、当該納税義務者に対してその年の五月三十一日までの間に支払われるべき給与又は退職手当等で当該月割額の全額に相当する金額を超えるものがあるときに限り、その者に支払われるべき給与又は退職手当等の支払をする際、当該月割額の全額(略)を徴収し、その徴収した月の翌月十日までに、これを当該市町村に納入しなければならない。
読み解くと、退職時期によって次のように分かれます。
| 退職時期 | 残りの住民税の扱い |
|---|---|
| 6月1日〜12月31日 | 原則は普通徴収に切り替え。ただし本人の申出があれば、最後の給与・退職手当等からまとめて徴収 |
| 翌年1月1日〜4月30日 | 本人の申出がなくても、5月31日までに支払われる給与・退職手当等からまとめて徴収(その額を超える支払いがある場合に限る) |
年明けから4月末までに辞めると、最後の給与から住民税がまとめて引かれることがある。これが「最後の給料が思ったより少なかった」の正体であることが少なくありません。
さらに同条3項では、給与の支払を受けなくなった納税義務者について、会社が市町村長へ届出書を提出することが定められています。会社側にも手続きがある、ということです。
退職日を決める前に確認しておきたいこと
- 今年度の住民税があと何回分残っているか。 給与明細か、5月〜6月ごろに配られる税額通知で確認できます。
- 退職月が1月〜4月に入るか。 入るなら、最後の給与から一括で引かれる可能性を前提に手取りを見積もります。
- 6月〜12月退職なら、申出をするかどうか決める。 まとめて払うか、納付書で分けて払うかの選択です。
- 納付書が届く時期と回数を市区町村に確認する。 普通徴収の納期は自治体によって異なります。
- 転職先が決まっている場合、特別徴収の引き継ぎができるか確認する。 会社間で手続きできることがあります。
退職日の候補が複数あるなら、退職日の逆算カレンダー で申し出日から数えた日付を出し、どの月に着地するかを先に見ておくと判断しやすくなります。社会保険料の側の損得は 月末退職と月初退職はどちらが得か にまとめました。
生活費の見積もりに必ず入れておく
退職後にかかるお金は、住民税だけではありません。
- 住民税(前年所得に対する課税・普通徴収に切り替わる)
- 国民健康保険料または任意継続の保険料(退職後の健康保険と年金)
- 国民年金保険料
- 家賃・生活費
収入が止まっているのに、前年の所得を前提とした支払いが続く。これが退職直後の資金繰りをいちばん圧迫する構造です。生活費の考え方は 退職後の生活費はどれくらい要る? にまとめています。辞めるかどうかを迷っている段階なら、辞めるべきか迷った時のチェックリスト もあわせてどうぞ。
なお、支払いが難しい場合の相談は、お住まいの市区町村の窓口が受け付けています。放置するより先に相談するほうが選択肢が残ります。
まとめ
- 住民税の特別徴収は地方税法321条の5第1項により、6月から翌年5月までの12回で組まれている
- 退職すると、同条2項により会社は翌月以降の分の徴収・納入義務を負わなくなり、本人が納める形に切り替わる
- 翌年1月1日〜4月30日の退職は、同項但書により申出がなくても最後の給与・退職手当等からまとめて徴収されることがある
- 6月1日〜12月31日の退職は、原則は普通徴収だが、本人の申出でまとめて徴収してもらうこともできる
- 前年の所得に対する課税なので、収入が止まっても支払いは残る
退職前に「あと何回分残っているか」を一度確認しておくだけで、納付書が届いた時の衝撃はかなり違います。
退職後の給付金(失業給付)について
住民税の支払いを給付で賄えると考える人もいるかもしれませんが、注意が必要です。失業給付(雇用保険の基本手当)の申請は、退職後にご本人がハローワークで行う手続きで、退職代行が代理申請することはできません。 受給の可否・金額・時期は、加入期間や離職理由などご自身の状況によって異なります。
当サイトは制度の概要や考え方を情報として紹介するにとどめ、申請の代行や受給の保証は行いません。 具体的な対象可否や手続きは、ハローワークなどの公的機関や、社会保険労務士をはじめとする専門家にご確認ください。「必ずもらえる」「受給を保証する」といった断定的な案内には十分ご注意ください。
あわせて読みたい
退職から転職までの進み方
お金の見通しが立ったら、次は転職活動の段取りを組む段階です。 転職の準備の記事を見る →

