早期退職の割増金にかかる税金:控除額を決めるのは金額ではなく勤続年数の数え方
早期退職に応じるかを金額で考えるとき、見るのは提示額ではなく手元に残る額です。そして手元に残る額を決めているのは、割増の大きさではなく勤続年数の数え方であることが少なくありません。
同じ2,000万円でも、勤続年数が2年違うだけで課税される額が変わります。
この記事は2026-09-06 時点の公表資料の整理です。個別の計算は勤務先または最寄りの税務署にご確認ください。
割増分も「退職所得」に入る
まず範囲です。国税庁のタックスアンサーNo.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)(令和7年4月1日現在法令等・2026-09-06 確認)は、退職所得を「退職により勤務先から受ける退職手当などの所得」とし、確定拠出年金の老齢給付金の一時金なども退職所得とみなされるとしています(定義の全文は 希望退職に応じるかを決める前に に引用しています)。
そのうえでNo.2732 退職手当等に対する源泉徴収(令和7年4月1日現在法令等・2026-09-06 確認)が、名目にかかわらず含めることを明示しています。
この退職手当等には、退職したことに基因して支払われるすべての給与が含まれますので、本来の退職手当のほかに功労金などを支給しても退職手当等に含めなければなりません。
「割増」「加算金」「功労金」といった名前は関係ありません。 退職に基因して一時に支払われるものは、まとめて退職手当等です。
計算の骨格は所得税法30条
所得税法(2026-09-06 確認)第30条2項が「収入金額 − 退職所得控除額」の2分の1という形を、同条3項が控除額を定めています。控除額は勤続20年以下なら1年あたり40万円、20年超なら800万円+70万円×(年数−20)。勤続30年なら800万円+70万円×10年=1,500万円です。同条6項は、計算額が80万円未満なら80万円とすること、障害者になったことに直接基因する退職なら100万円を加算することを定めています。
条文の逐語引用と計算手順は 退職金の税金は?所得税法30条の退職所得控除を条文で計算する にまとめてあるので、ここでは繰り返しません。この記事は、早期退職で効いてくる勤続年数の数え方に絞ります。
勤続年数は「切り上げ」
No.2732の記述です。
勤続年数とは、原則として、退職手当等の支払者の下で退職の日まで引き続き勤務した期間(以下「勤続期間」といいます。)の年数(勤続期間に1年に満たない端数があるときは1年に切り上げます。)です。
端数は切り上げです。No.1420の例示では、勤続年数10年2か月なら11年として扱い、40万円×11年=440万円になります。
早期退職では、この切り上げの効きが大きくなります。退職日が数か月ずれるだけで、控除額が40万円または70万円動くことがあるからです。退職日を選べる募集なら、確かめておく価値があります。日付の逆算には 退職日の逆算カレンダー が使えます。
含まれる期間・除かれる期間
No.2732は、勤続期間に含めるものと除くものを列挙しています。
含まれる期間
(1) 長期の欠勤や病気での休職の期間(5に該当するものを除きます。) (2) 過去に同一の支払者の下で勤務した期間(4、5、6に該当するものを除きます。) (3) その支払者または他の者の下で前に勤務した期間で、退職給与規程などの明らかな定めに基づき、退職手当等の支払金額の計算の基礎に含まれる期間
除かれる期間
(4) 日額表丙欄の適用を受けていた期間 (5) 他の支払者の下で勤務するために休職した期間(3に該当するものを除きます。) (6) その支払者から前に支払を受けた退職手当等の支払金額の計算の基礎となった期間の末日以前の期間(3に該当するものを除きます。)
休職していた期間が原則として含まれる一方で、在籍出向で他社に勤務するために休職していた期間は除かれることがあります。転籍・出向を挟んだ経歴では、ここで年数がずれます。
前に退職手当等を受け取っているとき
早期退職で最も見落とされるのがこの調整です。No.2732は、重複期間がある場合にその分の控除額を差し引くと定めています。
本年分の退職手当等の勤続年数に基づき上記表により算出した退職所得控除額から、重複期間の年数(重複期間に1年未満の端数がある場合には切り捨てます。)に基づき上記表により算出した退職所得控除額相当額を控除した残額が退職所得控除額となります。
対象となる「前の退職手当等」の範囲は、イ・ロ・ハの3つに分かれています。ロの中の(イ)(ロ)まで含めて読まないと、遡る年数を間違えます。
イ 前年以前4年内に退職手当等(上記(1)の「前年以前に支払を受けた退職手当等」を除きます。)の支払を受けた場合(ロハの場合を除きます。) 前年以前4年内に支払を受けた退職手当等 ロ 前年以前9年内に確定拠出年金法に基づく老齢給付金として支給される一時金(令和8年1月1日以後に支払を受けたものに限り、上記(1)の「前年以前に支払を受けた退職手当等」を除きます。)の支払を受けた場合(ハの場合を除きます。) 次の退職手当等 (イ) 令和8年1月1日以後に支払を受けた退職手当等であって前年以前9年内に支払を受けたもの (ロ) 令和8年1月1日前に支払を受けた退職手当等であって前年以前4年内に支払を受けたもの ハ 前年以前19年内に退職手当等(上記(1)の「前年以前に支払を受けた退職手当等」を除きます。)の支払を受け、本年中に確定拠出年金法に基づく老齢給付金として支給される一時金の支払を受ける場合 前年以前19年内に支払を受けた退職手当等
読み方を整理すると、次のようになります。
| 場面 | 遡る年数 |
|---|---|
| 確定拠出年金の一時金が絡まない(イ) | 前年以前4年内 |
| ロに当たる場合で、令和8年1月1日以後に支払を受けた退職手当等(ロの(イ)) | 前年以前9年内 |
| ロに当たる場合でも、令和8年1月1日前に支払を受けた退職手当等(ロの(ロ)) | 前年以前4年内のまま |
| 本年中に確定拠出年金の一時金を受け取る場合(ハ) | 前年以前19年内(日付の限定なし) |
「9年内」は、令和8年1月1日以後に支払を受けた退職手当等についての話です。 それより前に受け取っていた退職手当等まで9年遡るわけではありません(ロの(ロ)がその場合を4年内に据え置いています)。
一方、19年内のハには、原文上、令和8年1月1日という日付の限定が一切ありません。 「令和8年から新設された」と読まないよう、ここは分けて扱ってください。
確定拠出年金の一時金が絡むと、遡る年数が4年から9年または19年に伸びます。 早期退職に応じてから確定拠出年金の一時金を受け取る(あるいはその逆の)順番を考えるとき、この年数が判断材料になります。企業型DCそのものの扱いは 退職後6か月放置すると企業型DCはどこへ行くのか、定年前の確認事項は 定年前に確認する企業年金とiDeCo にまとめました。
前の退職手当等が少額だった場合の読み替えも定められています。
| 前の退職手当等の収入金額 | 算式 |
|---|---|
| 800万円以下の場合 | 収入金額 ÷ 40万円 |
| 800万円を超える場合 | (収入金額 − 800万円)÷ 70万円 + 20 |
この算式で出た年数(1未満の端数は切り捨て)の期間だけを、前の勤続期間とみなして重複を計算します。
勤続5年以下なら2分の1が使えないことがある
早期退職とは逆の方向ですが、条文上の例外も押さえておきます。所得税法30条4項の短期退職手当等(役員等以外としての勤続年数が5年以下)は、No.1420がこう説明しています。
短期退職手当等(中略)については、退職金の額から退職所得控除額を差し引いた額のうち300万円を超える部分については、上記計算式の2分の1計算の適用はありません。
30条5項の特定役員退職手当等(役員等勤続年数5年以下)には、2分の1計算の適用そのものがありません。
確認する順番
- 提示された割増額が退職手当等に含まれるか(名目は問わない)
- 自分の勤続年数(端数は切り上げ/休職・出向期間の扱い)
- 前に退職手当等や確定拠出年金の一時金を受け取っていないか(原則4年内。令和8年1月1日以後に支払を受けたものは9年内、本年中に確定拠出年金の一時金を受け取るなら19年内)
- 「退職所得の受給に関する申告書」を出したか(出さないと20.42%で源泉徴収 → 「退職所得の受給に関する申告書」を出さないとどうなるか)
まとめ
- 割増分・功労金も退職に基因して支払われるすべての給与として退職手当等に含まれる
- 控除額は20年以下が1年40万円、20年超が800万円+70万円×(年数−20)。勤続30年で1,500万円
- 勤続年数の端数は1年に切り上げ。退職日が数か月ずれると控除が40万円または70万円動く
- 休職期間は原則含まれるが、他社勤務のための休職期間は除かれる
- 前に退職手当等を受け取っていると重複期間分が差し引かれる。9年内はロの(イ)=令和8年1月1日以後に支払を受けた分の話で、同日前の分は4年内のまま(ロの(ロ))。19年内のハには日付の限定がない
- 勤続5年以下は300万円超の部分で2分の1計算が使えない(短期退職手当等)
金額の交渉より先に、自分の勤続年数を1年単位で確定させることです。そこが控除額を決めています。
出典(すべて 2026-09-06 に確認)
- e-Gov 法令検索「所得税法」第30条
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
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