退職を誰に、どの順番で伝えるか:就業規則と民法のどちらが先か
辞めると決めたあと、次に立ち止まるのは「誰に、どの順番で言うのか」だと思います。直属の上司が先なのか、人事に直接持っていっていいのか。そして調べていくうちに、就業規則には「1か月前まで」と書いてあるのに、法律の解説には「2週間」と出てくる。ここでさらに混乱します。
この記事では、会社側のルールが何を根拠に置かれているのかを条文で確認し、そのうえで2つの期間が食い違うと日付として何が起きるのかを並べます。どちらが優先するのかという結論は出しませんが、両方の日付を手元に持つところまでは自分で進められます。
この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。就業規則の定めや個別の事情によって扱いは異なります。具体的な判断は弁護士や社会保険労務士など専門家にご確認ください。
会社のルールは労基法89条に根拠がある
まず、就業規則がなぜあるのかという話です。労働基準法89条は次のように定めています。
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。 三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
「常時十人以上」の事業場については、退職に関する事項を就業規則に定めて届け出ることとされています。ですから「退職は1か月前までに申し出ること」といった条項は、多くの場合この3号にもとづいて置かれているものです。
裏を返せば、まず読むべきは自分の会社の就業規則ということになります。厚生労働省のモデル就業規則についてでは、規則の一般的な構成と条文例を確認できます。
民法627条1項は2週間と書いている
一方、期間の定めのない雇用について、民法627条1項はこう定めています。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
「解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する」。ここには承諾を得る手続は書かれておらず、効果は期間の経過に結びつけられています。数え方(初日不算入など)は 退職を申し出てから何日で辞められる? で扱いました。
食い違うと、日付として何が起きるか
たとえば9月5日に申し出て、就業規則に「1か月前まで」とある場合を置いてみます。
| 数え方の根拠 | 出てくる日付 | 何が書かれているか |
|---|---|---|
| 民法627条1項 | 9月19日 | 申入れの日から2週間の経過で終了 |
| 就業規則の予告期間(例:1か月前) | 10月5日ごろ | 労基法89条3号にもとづく会社の定め |
| 転職先の入社日 | 各自の事情 | 契約上の別の締切 |
この3つの日付は、ずれます。 どちらが優先するのかという論点は、当サイトでは結論を出しません(個別の事情と条項の内容によって扱いが変わるためです)。ただし実務として現実的なのは、両方の日付を出したうえで話すという形です。話が「気持ちの問題」に流れるのを防げます。
退職日の逆算カレンダー は、民法627条の2週間で数えた日付と、就業規則の予告日数で数えた日付を並べて表示する道具です。どちらが正しいかは示しませんが、2つの印をカレンダーに置くことはできます。予告期間の食い違いそのものは 就業規則に「1か月前」とある時 で詳しく扱っています。
伝える順番の手順
順番については、法律が「上司が先」と定めているわけではありません。多くの就業規則が、所属長を経由して届け出る形で組まれているという以上のことは言えないので、ここでは手順としてだけ並べます。
- 就業規則の「退職に関する事項」を先に読む。 提出先・様式・予告期間の指定があるかを確認します。ここが順番を決める材料になります。
- 2つの日付を出しておく。 民法627条の2週間と、就業規則の予告日数。逆算カレンダー で並べます。
- 直属の上司に、口頭で意思を伝える。 規則が所属長経由の届出を定めている場合、ここが起点になります。伝え方そのものは 退職理由の伝え方 にまとめました。
- 書面(退職届)を、規則が定める提出先に出す。 退職届の作成ツール で無料・登録不要で作れます。到達の記録が要る場合の考え方は 退職の申し出はメールやLINEでもいいのか をご覧ください。
- 人事・総務と、退職日と手続の確認をする。 保険・年金・書類の受け取りがここで動きます。
退職時の証明は請求できる
やりとりの内容を書面として残したい場合、労基法22条1項に次の定めがあります。
労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。
請求した場合には、遅滞なく交付しなければならないと書かれています。使用期間・業務の種類・地位・賃金・退職の事由が対象です。受け取る書類の全体像は 退職時に受け取る書類一覧 にまとめました。
進め方で行き詰まった場合、無料の相談先として厚生労働省の総合労働相談コーナーがあります。予約不要・無料で、専門の相談員が面談または電話で対応するとされています。ただし、窓口があなたの代理人として会社と交渉するわけではありません。
まとめ
- 就業規則の予告期間は、多くの場合労基法89条3号(常時10人以上の事業場の届出義務)にもとづいて置かれている
- 民法627条1項は、申入れの日から2週間の経過で終了すると定めている
- 2つが食い違うと日付がずれる。どちらが優先するかは個別の判断だが、両方の日付を出しておくことは自分でできる
- 伝える順番は法律の定めではなく、就業規則の提出先の指定を先に読んで決めるのが現実的
- やりとりを書面で残したいときは、労基法22条1項の退職時の証明を請求できる
順番に悩むより先に、就業規則を1ページ開くほうが早く進みます。そこに書かれている提出先が、そのまま順番の答えになっていることが多いからです。
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