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整理解雇の「4要件」はどこに書いてあるか:引用元の判決は「三個の要件」と述べている

業績を理由に人を減らすとき、「整理解雇には4要件がある」と説明されます。ところが、その4要件を定めた条文はありません。 労働基準法にも労働契約法にも、整理解雇という語自体が出てきません。

では何を根拠に語られているのか。よく引用される判決の判示の骨子にあたると、そこには「三個の要件」と書かれています。

この記事は2026-09-06 時点の公表資料の整理です。個別の事案の判断は、弁護士または最寄りの総合労働相談コーナーにご相談ください。

条文にあるのは、たった一条

労働契約法(2026-09-06 確認)第16条がすべてです。条文は、解雇が「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」に権利の濫用として無効になる、と定めています(逐語引用は 退職勧奨は断れるか に載せています)。

「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当」の2つしか書かれていません。整理解雇の要件は、この2語を経営上の理由による解雇に当てはめると何を見るべきか、という形で裁判例が積み上げてきたものです。

厚生労働省の「確かめよう労働条件」に掲載された解雇の裁判例(2026-09-06 確認)も、普通解雇の「客観的に合理的な理由」を5つに分類し、その4番目に「経営上の必要性による解雇」を置いています。整理解雇は、解雇の一類型として扱われています。

東洋酸素事件が挙げたのは「三個の要件」

同じページの参考裁判例(5)が東洋酸素事件(S54.10.29東京高判)です。特定の製造部門を全面閉鎖したことに伴う整理解雇が、就業規則の「やむをえない事業の都合によるとき」に当たるかが争われました。【判示の骨子】を引きます。

特定の事業部門の閉鎖に伴い当該事業部門に勤務する従業員を解雇するについて、それが「やむを得ない事業の都合」によるものと言い得るためには、第一に、当該事業部門を閉鎖することが企業の合理的運営上やむをえない必要に基づくものと認められる場合であること、第二に、当該事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に会社の恣意によってなされるものでないこと、第三に、具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づくものであること、以上の三個の要件を充足することを要し、特段の事情のない限り、それをもって足りるものと解するのが相当である。

読み替えると次のようになります。

判決の言い回し よく使われる呼び方
第一 ── 企業の合理的運営上やむをえない必要に基づく 人員削減の必要性
第二 ── 配置転換の余地がない、会社の恣意によるものでない 解雇回避努力
第三 ── 対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づく 人選の合理性

「手続の妥当性(説明・協議)」に当たる項目は、この判決の三個の中には入っていません。 世の中で「4要件」と呼ばれているものが、どの裁判例から4つ目を持ってきているのかは、この骨子だけからは分かりません。本記事は出典を確認できた範囲にとどめます。

もうひとつ、文の切れ目の読み方も押さえておきます。骨子は「三個の要件を充足することを要し、特段の事情のない限り、それをもって足りる」という形です。

  • 「要し」(三個が必要だということ)には、留保がありません。
  • 「特段の事情のない限り」が掛かっているのは、後半の「足りる」(三個で十分だということ)だけです。

つまり特段の事情があれば「三個では足りない」ことがある、という上乗せ方向の余地を残した書き方であって、三個のうちどれかを免除する方向の余地を書いたものではありません。

なお、この事案は使用者側が勝訴しています。「4要件を満たさなければ必ず無効」という単純な物差しではない、ということでもあります。

解雇権濫用の考え方そのものは、同ページが「基本的な方向性」の参考裁判例(1)として挙げる日本食塩製造事件(S50.04.25最二小判)に由来するとされています。

ただし、この事件の事案はユニオン・ショップ協定に基づく解雇です。労働組合から除名された従業員に対して会社が協定に基づいて行った解雇について、除名が無効なら会社に解雇義務が生じない、という文脈で判断されています。骨子の結論部分はこうです。

当該除名が無効な場合には、会社に解雇義務が生じないから、かかる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会的に相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏づける特段の事由がないかぎり、解雇権の濫用として無効であるといわなければならない。

引用するときは、この「当該除名が無効な場合には」という限定を落とさないことです。 また、この判決の語は「社会的に相当」で、労働契約法16条の「社会通念上相当」とは表現が一致していません。16条はこうした判例法理を踏まえて条文化されたものですが、判決の一文がそのまま条文になっているわけではありません。

手続として必ず動く条文は労働基準法20条

要件の議論とは別に、日数の方は条文にはっきり書かれています。 労働基準法(2026-09-06 確認)第20条です。

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

同条2項は、1日について平均賃金を支払えばその日数だけ予告日数を短縮できると定めています。予告と手当を組み合わせる形が認められている、ということです。ただし書きの2つの場合には、行政官庁の認定が必要になります(同条3項が19条2項を準用)。

なお、労働基準法20条の解雇予告手当は、国税庁のNo.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)(令和7年4月1日現在法令等・2026-09-06 確認)が明記するとおり、退職所得に該当します。給与としてではなく、退職金と同じ枠で課税されます。

実際にはどれくらい争われているか

厚生労働省の令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況(令和8年7月7日公表・2026-09-06 確認)で、整理解雇の件数を拾うと次のとおりです。

手続 整理解雇の件数 割合 割合の分母
民事上の個別労働関係紛争の相談 3,039件 0.9% 内訳延べ相談件数 327,359件
助言・指導の申出 70件 0.6% 内訳延べ申出件数 11,382件
あっせんの申請 83件 1.7% 内訳延べ申請件数 4,888件

割合の分母は、申出件数(9,616件)や申請件数(4,486件)ではありません。 同PDFは各表に「内訳が複数にまたがる事案もあるため、合計が◯件になる」と注記しており、割合はこの延べ件数に対するものです(70 ÷ 11,382 = 0.6%、83 ÷ 4,888 = 1.7%)。申出件数で割ると数字が合いません。

普通解雇の相談25,967件(7.9%)と比べると、整理解雇は1桁少ないことになります。あっせん申請全体では解雇が892件(前年度比12.6%増)で最多でした。

通告されたときに確かめる4つ

  1. 解雇なのか、退職の勧めなのか(勧めなら断れます → 退職勧奨は断れるか
  2. 予告があるか、予告手当が支払われるか(労基法20条)
  3. 退職理由を書面でもらえるか(請求できる証明書の範囲は 退職時に受け取る書類の一覧
  4. 離職票にどう記載されるか会社都合を離職票でどう確かめるか

「4要件を満たしていない」と主張する前に、まずこの4つを紙の形で確保するところからです。

まとめ

  • 整理解雇の要件を定めた条文は無い。あるのは労働契約法16条の一条だけ
  • よく引用される東洋酸素事件は、「以上の三個の要件を充足することを要し、特段の事情のない限り、それをもって足りる」と述べている
  • 三個は必要性・回避努力(恣意でないこと)・人選の合理性。手続の妥当性はこの判決には含まれない
  • 「特段の事情」が掛かるのは「足りる」の側だけ。三個が必要であること自体には留保がない
  • 同事件は使用者側が勝訴しており、要件は機械的な足切りではない
  • 日数は条文に明記されている。30日前の予告、または30日分以上の平均賃金(労基法20条)
  • 令和7年度の整理解雇の相談は3,039件(0.9%)。普通解雇の25,967件より1桁少ない。割合の分母は延べ件数(相談327,359件・助言指導11,382件・あっせん4,888件)

「4要件」という言葉を使う前に、引用元の判決が何個と書いているかを見ておくと、話がずれずに済みます。

出典(すべて 2026-09-06 に確認)

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