退職エラビ
注意点・トラブル公開

退職勧奨は断れるか:「自由に意思を決定しうる」と判示された理由

「そろそろ考えてみないか」と面談で言われたとき、それが解雇なのか、勧めなのかを先に切り分ける必要があります。切り分けが済めば、答えは短くなります。

退職勧奨は、断れます。 そう判断した最高裁判決が、厚生労働省のサイトに骨子つきで載っています。

この記事は2026-09-06 時点の公表資料の整理です。個別の事案の判断は、弁護士または最寄りの総合労働相談コーナーにご相談ください。

解雇と退職勧奨は、別のもの

まず条文です。労働契約法(2026-09-06 確認)第16条は解雇についてこう定めています。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

解雇は会社の一方的な意思表示で、争点は「有効か無効か」になります。これに対して退職勧奨は、辞めるという意思を本人に形成してもらう働きかけです。会社の側に、辞めさせる権利があるわけではありません。

判示の骨子:「勧奨される者は自由にその意思を決定しうる」

厚生労働省の「確かめよう労働条件」に掲載された退職勧奨の裁判例(2026-09-06 確認)は、基本的な方向性をこう示しています。

退職勧奨は、使用者が雇用関係のある者に自発的に退職する意思を形成させるための行為であり、勧奨される者は理由の如何を問わず、自由な意思で勧奨による退職を拒否できます。 勧奨される者の任意の意思形成を妨げ、あるいは名誉感情を害するような言動による勧奨行為は、不法行為を構成する場合があります。

挙げられているのが下関商業高校事件(S55.07.10最一小判)です。市立高校の教諭2名が、退職勧奨の基準年齢(57歳)になったとして、初回から一貫して応じないと表明していたにもかかわらず執拗に勧奨を受けたため、損害賠償を求めた事案です。同ページの【判示の骨子】から引きます。

退職勧奨は、任命権者が雇用関係のある者に、自発的に退職するよう説得する行為であって、勧奨される者は自由にその意思を決定しうる。 勧奨される者の任意の意思形成を妨げ、あるいは名誉感情を害する勧奨行為は、違法な権利侵害として不法行為を構成する場合がある。 本件退職勧奨は、多数回かつ長期にわたる執拗なものであり、許容される限界を越えている。また、従来と異なり年度を超えて勧奨が行われ、退職するまで続けると述べて、X1らに際限なく勧奨が続くのではないかとの心理的圧迫を加えたものであって許されない。組合の要求にも、退職しない限り応じないとの態度を示し、X1らに二者択一を迫るがごとき心理的圧迫を加えたものであり、いずれも不当といえる。

違法とされたのは「勧奨したこと」ではなく、断った後の続け方です。ここが実務上の分かれ目になります。勧めること自体は許されている一方で、

  • 回数と期間(多数回・長期・年度を超える)
  • 「退職するまで続ける」という言い方
  • 二者択一を迫る形

が重なると、限度を越えたと判断されています。一度きちんと断ることには、記録としての意味があります。

数としてはどれくらい起きているか

厚生労働省の令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況(令和8年7月7日公表・2026-09-06 確認)に、内容別の件数が出ています。総合労働相談件数は119万8,010件で、18年連続で100万件を超えています。

民事上の個別労働関係紛争の相談(延べ327,359件)の内訳では、

内容 件数 割合
退職勧奨 26,022件 7.9%
普通解雇 25,967件 7.9%
整理解雇 3,039件 0.9%
自己都合退職 38,386件 11.7%
いじめ・嫌がらせ 55,614件 17.0%

退職勧奨の相談は、普通解雇とほぼ同じ数あります。さらに踏み込んだ手続きでも、都道府県労働局長による助言・指導で退職勧奨は637件、紛争調整委員会によるあっせんで362件でした。

割合を見るときは、分母が申出件数・申請件数ではないことに注意します。

手続 申出/申請件数 割合の分母(内訳延べ件数) 退職勧奨 割合
助言・指導 9,616件 11,382件 637件 5.6%
あっせん 4,486件 4,888件 362件 7.4%

同PDFは「内訳が複数にまたがる事案もあるため、合計が11,382件(あっせんは4,888件)になる」と注記しています。637 ÷ 11,382 = 5.6%、362 ÷ 4,888 = 7.4% です。申出件数9,616で割ると6.6%になり、公表されている数字と合いません。相談の0.9%などについても同じで、分母は内訳延べ相談件数327,359件です。

助言・指導は98.4%が1か月以内に処理されています。相談窓口は令和8年4月1日現在で378か所の総合労働相談コーナーです。

断った場合と、応じた場合で離職理由が変わる

応じるかどうかを決める材料として、離職理由の扱いも見ておきます。ハローワークインターネットサービスの特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要(2026-09-06 確認)は、特定受給資格者の「2 『解雇』等により離職した者」に次を挙げています。

(11) 事業主から直接若しくは間接に退職するよう勧奨を受けたことにより離職した者(従来から恒常的に設けられている「早期退職優遇制度」等に応募して離職した場合は、これに該当しない。)

勧奨に応じて辞めた場合は、原則として特定受給資格者です。所定給付日数は自己都合より手厚くなります。ただしそれは、離職票にそう記載された場合の話です。

  • 応じるなら、自分から退職願を出す形にしない(勧奨を受けた事実が残る形にする)
  • 断るなら、断った日と内容を記録に残す
  • どちらでも、面談の日時と発言はその日のうちにメモにする

引き止めや「認めない」と言われた場合の扱いは 退職を引き止められたときに条文で確認できること、会社が退職を認めないと言ってきた場合は 会社が退職を認めないと言ってきたら にまとめています。

面談で聞いておくこと

  1. これは解雇の通告か、退職の勧めか(言葉を濁されたら、その場で確認する)
  2. 返事の期限はいつか(その場で答える義務はない)
  3. 応じた場合の条件(割増の有無、退職日、離職票の記載)
  4. 断った場合にどうなるか

4つ目は、答えの中身より答え方を見る質問です。「断れば解雇する」と返ってきた場合、話は労働契約法16条の側に移ります。

まとめ

  • 退職勧奨は説得する行為であり、勧奨される者は理由の如何を問わず自由な意思で拒否できる
  • 違法とされるのは勧奨そのものではなく、任意の意思形成を妨げる続け方(多数回・長期・二者択一を迫る形)
  • 令和7年度の相談で、退職勧奨は26,022件(7.9%)。普通解雇の25,967件とほぼ同数
  • 助言・指導は637件(5.6%)、あっせんは362件(7.4%)割合の分母は内訳延べ件数(11,382件・4,888件)で、申出・申請件数ではない
  • 応じて辞めた場合は原則として特定受給資格者(恒常的な早期退職優遇制度への応募は除く)

その場で答える必要はありません。日付と発言を書き留めてから決める、それだけで選択肢が減らずに済みます。

出典(すべて 2026-09-06 に確認)

あわせて読みたい

退職から転職までの進み方

  1. 済んだ段階辞めていいか迷う
  2. 済んだ段階言い出せない
  3. いまここ辞めさせてくれない
  4. STEP 4辞めた後のお金
  5. STEP 5転職の準備

退職の見通しが立ったら、次は退職後のお金と手続きの段階です。 辞めた後のお金と手続きの記事を見る →