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部下から「辞めたい」と言われたら:上司の側の手順を条文で確認する

部下から「辞めたいと思っています」と切り出される場面は、準備なしにやってきます。引き止めるべきか、いつ上に上げるか、いつから代わりを探すか。判断がいくつも同時に来ます。だから順番が分からなくなります。

この記事は、送り出す側(上司)の立場から書きました。条文で決まっていることだけを時系列に並べています。決まっていないことは「決まっていない」と書きます。

この記事は法令と公表資料の整理であり、個別の労務相談への回答ではありません。実際の対応は、自社の就業規則と人事部門の指示に従ってください。

承認は要件になっていない

民法627条1項は、期間の定めのない雇用について次のように定めています。条文はe-Gov 法令検索で読めます(2026-09-06 確認)。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

「会社が承認したとき」とは書かれていません。 厚生労働省の解説も、この点を同じように書いています。出典はモデル就業規則です(令和7年12月版・2026-09-06 確認)。

期間の定めのない雇用の場合、労働者はいつでも退職を申し出ることができます。また、会社の承認がなくても、民法(明治29年法律第89号)の規定により退職の申出をした日から起算して原則として14日を経過したときは、退職となります(民法第627条第1項)。

つまり、上司にとっての最初の事実は「返事をどうするか」ではありません。「日数はもう動き始めている」ということです。引き止めるかどうかを考えている間も、2週間は進みます。

就業規則の日数は、モデルでも空欄になっている

「うちは1か月前と決まっている」という運用はよく見かけます。ただ、モデル就業規則の第52条は次の書きぶりです。

第52条 前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。 ① 退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して__日を経過したとき ② 期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき ③ 第9条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき ④ 死亡したとき

日数の部分は空欄です。事業場ごとに記入する形になっています。国が「何日」と決めているわけではありません。

就業規則の日数と民法の2週間が食い違うこともあります。そのときの見方は、就業規則に「1か月前」とある。2週間で辞められる? に整理しました。実際の日付は 退職日の逆算カレンダー で出せます。申し出日を入れると、日付が並んで出てきます。

上司の側に発生する義務は3つ

条文で期限が切られているものは多くありません。期限があるのはこの3つです。

いつ 何を 根拠
請求があったとき 使用期間・業務の種類・地位・賃金・退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付 労働基準法22条1項
請求があったとき 7日以内に賃金を支払い、金品を返還 労働基準法23条1項
退職後 労働者名簿・賃金台帳などの重要書類を保存 労働基準法109条(当分の間3年・143条1項)

労働基準法22条1項は次のとおりです。条文はe-Gov 法令検索にあります(2026-09-06 確認)。

労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあつては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、使用者は、遅滞なくこれを交付しなければならない。

同条3項には、次のただし書き的な制限が付いています。

前二項の証明書には、労働者の請求しない事項を記入してはならない。

求められていないことを書き足してはいけない、という定めです。良かれと思って評価コメントを添えると、この定めに触れます。

23条1項は次のとおりです。

使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求があつた場合においては、七日以内に賃金を支払い、積立金、保証金、貯蓄金その他名称の如何を問わず、労働者の権利に属する金品を返還しなければならない。

同条2項は、争いがある場合の扱いを次のように定めています。

前項の賃金又は金品に関して争がある場合においては、使用者は、異議のない部分を、同項の期間中に支払い、又は返還しなければならない。

もめている部分があっても、もめていない部分は7日以内に払う。 ここは分けて処理する建て付けです。

引き継ぎの義務は、条文には無い

意外に思われるところです。厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)には「引き継ぎ」を定めた条文がありません。近いものは第16条2項です。次のように書かれています。

労働者は、職場又は職種を異動あるいは退職するに際して、自らが管理していた会社及び取引先等に関するデータ・情報書類等を速やかに返却しなければならない。

これは返却の定めです。業務の引き継ぎそのものの定めではありません。引き継ぎを求めるなら、自社の就業規則に条文があるかをまず確認してください。受け取る側が何を押さえるかは 引き継ぎを受ける側のチェック にまとめました。

有給が残っていれば、最終出社日は退職日より前になる

労働基準法39条1項は、有給の付与について次のように定めています。

使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

2項には表が付いています。6か月経過日から起算した継続勤務年数に応じて、日数が加算されます。1年で1労働日、2年で2労働日、3年で4労働日、4年で6労働日、5年で8労働日、6年以上で10労働日です。勤続6年半以上なら年20日になる計算です。

ここで上司が見る日付は、退職日だけではありません。残日数が多いほど、在籍はしているが出社しない期間が長くなります。送別の日程、引き継ぎの締め切り、機器の返却日を思い浮かべてください。これらは退職日ではなく最終出社日で組む必要があります。日数の数え方は 退職時に有給は何日残っている? にあります。

引き止めをどう扱うか

条文には、引き止めについての定めはありません。やってはいけないと決まっているわけではありません。ただし、辞める効力を止める手段も無い、というのが正確なところです。時間の使い方として現実的なのは、次の順です。

  1. 申し出の日を記録する(2週間の起算日になる)
  2. 有給の残日数を確認する(最終出社日が決まる)
  3. 就業規則の予告日数を確認する(民法との差を把握する)
  4. 引き継ぎ先を決める(条文に義務が無いぶん、早く決めるほど確実)
  5. 証明書・返却物の窓口を伝える(22条・23条の請求はいつ来てもよいようにしておく)

引き止められた側の受け取り方は 退職を引き止められたときに条文で確認できること にあります。退職代行から連絡が来た場合の扱いは 同僚が退職代行で辞めたとき にまとめました。

上司の側で押さえておくこと

  • 民法627条1項により、承認が無くても申入れの日から2週間で終了する
  • モデル就業規則52条の日数は空欄。「何日前」は国が決めた数字ではない
  • 期限がある義務は3つ:証明書は遅滞なく(22条1項)、金品返還は7日以内(23条1項)、記録の保存は当分の間3年(109条・143条1項)
  • 証明書には請求されていない事項を書いてはならない(22条3項)
  • 引き継ぎの条文はモデル就業規則に無い。自社規則を確認する
  • 有給が残っていれば最終出社日が前倒しになる。日程は退職日でなく最終出社日で組む

引き止めるかどうかを決める前に、日付を3つ(申し出日・最終出社日・退職日)押さえる。それだけで、この後の判断はかなり楽になります。

出典(すべて 2026-09-06 に確認)

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