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退職代行で損害賠償を請求されることはある?条文で確認

「勝手に辞めたら損害賠償を請求するからな」。この一言が怖くて動けない、という声はとても多いものです。実際に言われていなくても、「言われるかもしれない」という想像だけで足が止まってしまう。退職をためらう理由として、これはかなり上位に来ます。

先に立場をはっきりさせておくと、この記事では「請求されません」とも「安全です」とも書きません。 会社が請求すること自体は、誰にも止められないからです。そのうえで、どの条文がこの話の土台になっていて、どこが争点になるのかを、条文にあたって整理します。輪郭がわかると、恐怖の大きさが実際のサイズに近づきます。

この記事は一般的な情報の整理であり、法的助言ではありません。損害賠償の可否は個別の事情に強く左右されます。実際に請求を受けた、または示唆された場合は、弁護士など法律の専門家にご相談ください。

この話に関係する条文は3つ

損害賠償という言葉が出てくる場面で、根拠になりうる条文は主に次の3つです。いずれも条文のまま引きます。

民法415条1項(債務不履行による損害賠償)

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

民法709条(不法行為による損害賠償)

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

労働基準法16条(賠償予定の禁止)

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

3つ目が、実は労働者側にとって大きな意味を持ちます。「辞めたら違約金100万円」といった形で、あらかじめ金額を決めておく契約は、労働基準法16条で禁止されています。 「契約書にそう書いてある」と言われた場合は、まずこの条文を思い出してください。

「請求できる」と「認められる」は別

条文をそのまま読むと、415条も709条も「損害が生じたなら賠償を請求できる」という書き方になっています。ここで分けて考えるべきなのは、次の2つです。

  • 請求すること:会社が「請求する」と言う、あるいは実際に請求書を送ることは、事実上いつでもできます。
  • 請求が認められること:最終的に支払い義務が生じるかどうかは、具体的な損害が発生したことと、それがその人の行為によって生じたことを、請求する側が示せるかどうかにかかります。

つまり、争点は「辞めたかどうか」ではなく、「辞めたことで、いくらの損害が、どのように生じたと示せるか」に移ります。人手が減って忙しくなった、というだけでは金額に落ちません。この立証のハードルがあるため、口頭での「損害賠償するぞ」が、そのまま金額の確定につながるわけではない、という構造になっています。

とはいえ、「絶対に請求されない」「必ず認められない」と言い切ることはできません。 事情によっては争いになりますし、その判断は最終的に裁判所の領域です。

期間の定めがあるかどうかで景色が変わる

もうひとつ、条文レベルで違いが出るのが雇用期間の定めです。

期間の定めのない雇用(いわゆる正社員など)については、民法627条1項がこう定めています。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

「いつでも解約の申入れをすることができる」と書かれている以上、辞めるという行為そのものを違法と評価するのは難しい、という理解につながります。

一方、契約社員など期間の定めがある場合は、民法628条が関係します。

当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

条文の後半に「損害賠償の責任を負う」と明記されているのがポイントです。期間途中での退職は、期間の定めのない雇用とは前提が異なります。契約社員の扱いは 契約社員は退職代行を使える? で整理しています。

自分の申し出日が民法627条ではどの日付になるのかは、退職日の逆算カレンダー で確認できます。

言われやすい場面と、事前に減らせること

実務上、この話が持ち出されやすいのは次のような場面です。

場面 会社側の言い分になりやすいこと 事前にできること
引き継ぎゼロで連絡が途絶えた 業務が止まった、取引先に迷惑がかかった 資料の場所・進行中の案件を書面で残す
貸与品を返していない 会社の物が戻っていない 返却物を一覧化し、送付記録を残す
研修費・資格取得費の返還 費用を負担したのに短期で辞めた 契約書の該当条項を確認し、専門家に見せる
期間の定めのある契約の途中 契約期間の残りがある 契約書の期間と、やむを得ない事由の有無を確認

ここで効いてくるのが、「争点をこちらから増やさない」という考え方です。引き継ぎ資料と貸与品の返却は、辞めることの是非とは別に、こちらで済ませられる部分です。引き継ぎの最低ラインは 引き継ぎをしないとどうなる? にまとめています。

言われた時に相談できる相手は運営元で変わる

損害賠償の話が実際に出てきた場合、対応できる相手は限られます。

運営元タイプ 損害賠償を示唆された時にできること
民間企業 意思を伝えることのみ。この論点に踏み込めない
労働組合 労働条件についての団体交渉はできるが、法的紛争の代理はできない
弁護士 代理人として交渉・応訴・訴訟まで対応できる

損害賠償が現実味を帯びている場面は、弁護士の領域です。これは値段の話ではなく、弁護士法72条による権限の話なので、料金の安さでは代替できません。運営元ごとの権限の違いは 運営元タイプの違い で確認してください。

まとめ

  • 根拠条文は民法415条・709条。ただし請求が認められるには、具体的な損害と因果関係を請求側が示す必要がある
  • 労働基準法16条は、あらかじめ違約金や賠償額を定める契約を禁じている。「契約書にそう書いてある」が常に通るわけではない
  • 期間の定めのない雇用は民法627条1項で「いつでも解約の申入れ」ができる一方、期間の定めがある場合は628条に賠償責任の定めがある。前提が違う
  • 引き継ぎ資料と貸与品の返却は、争点を自分から増やさないためにできること
  • 実際に言われた場合、代理人として対応できるのは弁護士だけ

「請求されるか」ではなく「何が争点になるか」で考えると、やるべきことが具体的になります。不安が具体的な形をとってきたら、早めに弁護士へ相談してください。

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